社会現象を巻き起こしたNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』(2024年度前期)が来年3月、スピンオフとして戻ってくることが発表され、ファンは大いに沸いている。

 伊藤沙莉主演の『虎に翼』は、日本初の女性弁護士で後に裁判官を務めた三淵嘉子をモデルに、男女不平等や朝鮮人問題などの社会的テーマに正面から向き合った。「攻めの朝ドラ」と評された同作は、第62回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞するなど、高い評価を受けた。長い朝ドラの歴史でも、間違いなく1つのエポック的作品と言えるだろう。

 そこから『おむすび』をはさみ、『虎に翼』の系譜を継いだと言えるのが「アンパンマン」作者のやなせたかしとその妻・暢をモデルとした『あんぱん』(2025年度前期)である。

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「ばけばけ」主演の高石あかり 公式Xより

 異例の長尺で戦争を描いたことや、当時大多数だったであろう軍国主義者としてヒロインを描いたこと、さらに敗戦後に世の中の価値観がひっくり返り、「逆転しない正義」を夫婦で探し求めていく物語は多くの賞賛を得た。

“社会派朝ドラ”はなぜアンチも生み出した?

『虎に翼』も『あんぱん』も、明確に「反戦」の思いをベースにして現代と地続きの問題を描き、戦争の気配が迫る現代の空気に警鐘を鳴らす役割を担う“社会派朝ドラ”だった。

「反戦」の気配が色濃く漂っていた「虎に翼」 公式サイトより

 しかしこれら“社会派”の2作は大反響の一方で、アンチも少なからず生んだ。

 例えば『虎に翼』は女性差別の問題だけでなく、家父長制に縛られる男性の苦しみや、戦わない・戦えない女性の疎外感も描いていたし、外国人や障碍者、同性愛者など、あらゆるマイノリティの「生きづらさ」を掬い上げ、寄り添おうとした。

 にもかかわらず、男性と見られる視聴者や夫婦で観ていた層の夫側から「男が責められている気がする」といったボヤキが多数あがった。

 また、あらゆる差別を取り上げるスタンスは視聴者自身の無自覚の差別意識を刺激することもあり、拒否反応を示す者や、極端な例では「外国人差別や性的マイノリティへの差別なんてない」と、差別自体を否定する者も出てきた。