脳とコンピュータをつなぐ技術である、ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)において、世界の注目を集めるスタートアップ企業・サイエンス社。そのCEOであるマックス・ホダック氏が、視覚補助装置について語った。
実用化が最も近い視覚補助装置「PRIMA(プリマ)インプラント」は、マイクロチップを網膜の下に埋め込み、特殊なメガネとセットで使うことで人工的に視力を取り戻させるのだという。(聞き手:須田桃子・科学ジャーナリスト)
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単語を読み、パズルを解けるようになった
――まず、視覚補助装置「PRIMAインプラント」について伺います。2024年9月に発表された中間データによると、欧州と英国の17施設で実施された臨床試験では、参加した加齢黄斑変性の患者38人のうち84%が文字や数字、単語を読めるようになり、中には長い文章を読めるようになった人も複数いるそうですね。
最終的なデータをまとめた論文がまもなく発表されますが、おおむねその通りの結果だと思います。従来の人工網膜デバイスでは「形態視」と呼ばれる機能が得られず、文字を見たときに脳がそれをつなぎ合わせて単語として読むことができませんでした。一方、プリマはそれを可能にし、患者は単なる形以上のものが見えるようになりました。単語を読んだり、クロスワードパズルを解いたりできるようになったのです。
――色は見えないのですね。
色がわかるようにはなりません。
――チップは長期間、網膜下に埋め込まれます。安全性についてどのように検証していますか。
安全性の確認にはいくつものレベルがあります。ヒトに使う前にまず、液体に浸して溶けだす化学物質を調べるなど、生体適合性の広範な試験を行いました。その後は動物実験、(通常よりも過酷な条件に置いて短期間に信頼性や寿命を評価する)加速寿命試験などを実施しています。
さらに臨床試験の本試験とは別に、米国と欧州の両方でそれぞれ5人の患者を対象にしたフィージビリティ試験(実際にヒトに埋め込んで「長期間安全に機能するか」を確認する小規模試験)も行っています。最長で6~7年の追跡データがある患者もいます。

