「やりたい」に突き動かされた結婚前のキャリア

 夫になる男性と知り合う前の大津さんは、スイミングスクールのインストラクターをしていた。高校在学中にアルバイトから始めたその仕事は、小学5年生からずっと水泳を続けていた大津さんにとって「やりたい」と心から思える仕事だった。就職難に苦しむ同級生から羨ましがられることもあったという。

 同棲を始めてからは、インストラクターを続けながら、彼と同じ会社で清掃のアルバイトを始めた。「彼ともっと一緒にいたい」という思いがあっての行動だったが、職場環境は想像以上に過酷だった。

「清掃の仕事って実は万年人手不足なんです。キツい・汚い・臭いといった、いわゆる“3K”の仕事だから、下に見られているんですよね。若い女性が入ってくることなんてほとんどないので、私は可愛がられる一方で、陰口を言われることもありました。『これだから女は』って舌打ちされたこともあります」

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 女性であることに加えて、身長の低い大津さんは力仕事に向いていなかった。男性社会で肩身の狭い思いをしながら、それでも清掃の仕事にどんどんのめり込んでいったのは、業務に魅了されていったからだ。大津さんはスイミングスクールのインストラクターの仕事を辞めて、一本化することにした。休み時間に掃除用具の写真がずらっと並んだカタログを見るのが、何よりの楽しみだった。

写真はイメージ ©ponta/イメージマート

 逆境の中でも状況を楽しむことができるポジティブなマインドは、大津さんが持っている大きな才能の一つかもしれない。就職氷河期世代に生まれたという大きな困難の中でも、「やりたい」「楽しい」という前向きな気持ちで人生の選択肢を掴んでいった。しかし、結婚後に立ちふさがった分厚い壁は、そんなポジティブマインドをもってしても、乗り越えることが難しいものだったのだ。