「買い物依存症」で家がぐちゃぐちゃに

 夫の起業から3年、息子が生まれてからは4年。変わらず多忙を極めていた大津さんは、日々のストレスの解消先を求めて、買い物に依存するようになっていた。「欲しい」と思ったら買わずにいられない。高価なブランド物も例外ではなかった。しかし、買ってしまえば熱は冷め、部屋の中は開封しないままの購入品で溢れた。それでも新しい物が買いたくて仕方がない。

「家の中は常にぐちゃぐちゃでした。使わないってわかっているのに、買うのをやめられないんです。そんな散らかった部屋の中で、夫とする会話といえば仕事のことばかり。気づけば家庭と仕事が切り離せなくなっていたんです。すぐそこに息子がいるというのに……」

写真はイメージ ©maruco/イメージマート

 買った物が増えていく一方で、夫と過ごす時間は少なくなっていく。家で待っていても帰ってこない日も珍しくなくなった。孤独の中でさらに追い詰められる大津さんが心配していたのは、幼い息子への影響だ。母の不安を感じ取ったのか、幼稚園の友達との間にトラブルを起こしたり、ベランダに出て1人で泣いていたりすることが増えたという。

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 このままではいけないと夫に話し合いを持ちかけるも、主張はどこまでもすれ違った。言い争いになることもあったが、お互いに立場を譲れなかったのだ。

「息子と2人でどうにかなっちゃうかもしれない、という思いがありました。だから『もっと息子との時間を増やして』って言ったんです。3人で“家族愛”を育みたいと思ったから。でも、事業が軌道に乗っていた夫は、経営者として会社を大きくしたいと思っていた。それで『結婚生活が続けられなくても仕事は手伝ってくれ』と言うんです」

 分かり合うのは難しいと思った大津さんは、ついに離婚を決意した。夫には「会いたいときにいつでも、好きなだけ会っていいから」という条件で、息子を引き取ることにも納得してもらった。「お互いに息子のことは変わらず愛していこう」。それが、何よりも伝えたいことだった。

 2006年1月、大津さんが35歳のときに離婚が成立。夫が経営する会社の手伝いもやめることにした。就職氷河期が徐々に終息し、やっと景気回復の兆しが見え始めた頃のことだが、9歳の息子を抱えたシングルマザーの再就職がうまくいく保証はどこにもない。行く先の見えない中、大津さんの求職活動が始まった――。

次の記事に続く 月収たった1万円、父から「帰って来るな」就活では「子どもを1人で育てながら働けるの?」35歳で離婚したシンママが小4息子を育てるためにした“必死の決断”