「hideさんに目の前で歌ってほしい」
最初の1年は本人に病名を伝えていない。それでも何度も検査を受ける真由子は、病名を知りたがった。
「自分の体なのに、教えてもらえないのはおかしい」
最後は医師が説明した。
和子がMAWJを知ったのは95年秋である。骨髄移植関係の会報に、「難病の子の夢をかなえる団体」として連絡先が載っていた。真由子は中学3年だった。
「読んだ瞬間、これだって思いました。真由子がhideさんと会いたがっているのはわかっていました。部屋中にポスターを貼っていましたから」
長女が音楽好きで、いろんなアーティストのCDを聴いていた。真由子は中でも「X JAPAN」が気に入ったらしい。
和子はMAWJについて真由子に説明し、事務局に連絡した。
「来春に骨髄移植を控えています。その前に思い出を作ってやりたいんです」
寿子はすぐに関西支部のボランティアと一緒に和歌山の自宅を訪ね、真由子にどんな「夢」があるのかと聞く。
「X JAPANのメンバーとディズニーランドに行きたい」
「hideさんに会いたい」
「hideさんに目の前で歌ってほしい」
9番目までhideに関する願いで、10番目にようやくプロ野球選手の名を挙げ、「会いたい」と言った。本心がhideにあるのは疑いようがなかった。
44歳の寿子は「X JAPAN」やhideについて詳しく知らなかった。
「実はおばさん、ちょっと良さがわかんないんだよね」
こう打ち明けると、真由子は「そっか、そっか」と聞いていた。寿子は当時を思いだす。
「正直、夢の実現は難しいと思いました。芸能人やスポーツ選手に会いたいという子は多い。でも多くの場合、所属事務所に拒否されます」
特定の子に会うと、必ず他の子や団体から、「自分も同じように交流させてほしい」との希望が寄せられ、収拾が付かなくなる。それを危惧した事務所が、一律に拒否を決めているケースがほとんどだ。
