hideの事務所から想像とは違う反応が……

 寿子によると、会うのを了承する場合でも、「絶対に口外してくれるな」と口止めされるという。

「アメリカではMAWの知名度が高いためか、有名人が比較的会ってくれます。さらに、文化の違いもあるのか、アメリカでは『あの子に会ったのなら、私にも』という要求は日本ほどないようです」

大野寿子さん ©文藝春秋

 断られても仕方ない。寿子はそう思いながら、hideの事務所を訪ねた。真由子の思いを和子が綴った手紙を手渡すと、想像していたのとは違う反応が返ってきた。マネジャーはこう言った。

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「hideはやると思いますよ」

 そのとき、本人は米ロサンゼルスにいた。驚く寿子にマネジャーが続ける。

「話せば間違いなく会うと思います」「hideはそういう男です」

 和子は寿子から「会えそうだ」と連絡を受ける。

「夢を語って2週間ほどしたときだったと思います。電話を受けながら、すぐ横にいた真由子と2人で、『うそ? うそ?』って。信じられなかったです」

 真由子がマフラーを編み始めたのはその直後だった。すでに手が動きにくくなっていた。疲れると、和子が手をもんでやった。

 家族は、大みそかに予定されていた東京ドーム公演のチケットを購入済みだった。「どうせ上京するなら、それに合わせて」と、夢の実現はコンサート終了後と決まる。

 公演中、真由子は声を張り上げた。和子は驚いた。

「体が悪いからかもしれませんが、大きな声を出すような子じゃないんです。その真由子が叫んでいるんですから」

小倉孝保(おぐら・たかやす)

1964年滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長などを経て論説委員兼専門編集委員。2014年、日本人として初めて英国外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞。著書に『がんになる前に乳房を切除する 遺伝性乳がん治療の最前線』(文藝春秋)、『中世ラテン語の辞書を編む 100年かけてやる仕事』(角川ソフィア文庫)、『35年目のラブレター』(講談社文庫)などがある。

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