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ヤマ勘、一夜漬け…試験は常に落第すれすれ
酒と麻雀、たまに売血。勉学にいそしむ素振りを見せる者がいないのは旧制高校ゆずりの見栄である。勉強せずに抜群の成績を取るか、はたまたドッペルに沈むのか。 ドイツ語の「ドッペル」とは英語のダブルと同じ。つまり、落第。
バンカラを気取ってはいたものの、さすがにドッペルでは故郷の親に合わせる顔がない。教養学部で一単位でも落とせば学部へは進めなかった。低空飛行でも何とか及第を目指さねばならなかった。
教官には仏も、鬼もいた。出来の悪い生徒を見どころがあると可愛がってくれる教官は仏。鬼にかかったらアウト。教官の選別はドッペル組の先輩たちが何から何まで教えてくれた。
試験はヤマ勘。麻雀で鍛えた勘がここで大いに生きた。大学前にあった古本屋で参考書を買い、あたりをつけて一夜漬けをする。古本には歴代の先輩の鉛筆線が引いてあり、それが推理に役立った。試験を終えて古本屋に高値で売れば儲けにもなった。
悪友のなかには、答案用紙を白紙で出すわけにはいかないから、「……本論はさておき」と前書きをしたため、エッセイを書いてパスした猛者もいた。
「君のエッセイは面白い。だがいつも同じのはかなわんから、新しいのを頼むよ」と答案用紙に書いて返す粋な教官がいた大らかな時代だった。
学業は下の方だったが、友情を育み、恥をさらけだし合う寮生活での連帯感は格別だった。