「ミスターFM」と呼ばれた男、後藤亘氏。戦後の混乱期に反骨魂を胸に、ラジオの世界で革新を続けた経営者の評伝『反骨魂 後藤亘 「ミスターFM」と呼ばれた男』(文藝春秋)が刊行された 。

 黎明期のFM放送を牽引し 、伝説の深夜番組『JET STREAM』を立ち上げ 、ついには経営危機に瀕したTOKYO MXテレビの再生まで成し遂げた後藤氏の知られざる挑戦と人間哲学を、本書から4回にわたって抜粋して紹介する。(全4回の2回目/最初から読む)

 

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伝説の深夜番組『ジェットストリーム』誕生前夜

 すぐに企画書を作って、銀座にある日本航空本社に売り込みに行くことにした。

 その道中で銀座四丁目の三愛ビルを見上げ、このビルに機内食と同じような料理を出すレストランがあったことを思い出した。妻の美代子とも行った。まだまだ誰でも海外に行ける時代ではなかったが、せめてラジオでその気分を味わってもらいたいとの思いを強くする。

 日本航空で応対してくれたのは宣伝課長の伊藤恒だった。

 伊藤はシカゴ駐在員時代に夜遅くJAL機が到着すると、空港まで顧客を迎えに行くのが仕事だったという。さすがナショナルフラッグキャリアの宣伝マンだと感心しつつ、後藤は名刺を差し出す。ソニーの大賀と違って、伊藤は丁寧に受け取ってくれた。

「FM、ですね」

 企画書に目を通した伊藤が微笑んだ。

「私もアメリカに駐在していましたが、向こうはFMが全盛でね。どのステーションもステレオで音が良かったなぁ」

「そのFMで飛行機での『空の旅』をテーマにした番組を作りたいんです」

 そんな後藤の提案に、伊藤はこんな思い出話を始めた。