「ミスターFM」と呼ばれた男、後藤亘氏。戦後の混乱期に反骨魂を胸に、ラジオの世界で革新を続けた経営者の評伝『反骨魂 後藤亘 「ミスターFM」と呼ばれた男』(文藝春秋)が刊行された 。
黎明期のFM放送を牽引し 、伝説の深夜番組『JET STREAM』を立ち上げ 、ついには経営危機に瀕したTOKYO MXテレビの再生まで成し遂げた後藤氏の知られざる挑戦と人間哲学を、本書から4回にわたって抜粋して紹介する。(全4回の3回目/最初から読む)
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FM東京初の新卒アナウンサーとして入社した女性
開局の翌年にFM東京初の新卒アナウンサーとして入社したのが宿谷このみである。
たまたまチューニングを合わせたFM東京でアナウンサーの募集をしていた。
翌日、電話をすると、「明日までに履歴書、写真を持ってお越しください」。
あまりにも急だったが、とりあえず受けてみることにした。中学時代は放送部、高校時代は演劇部、就職もその延長くらいの軽い気持ちだった。
筆記、面接、音声テストなどが6次まであり、アナウンステストでは写真を1枚渡され、現場にいるつもりで実況中継してみろと言われる。訳もわからず必死でレポートした。
面接では、「音楽は好きですか?」と聞かれ、「大好きです。ただ、演歌はあまり詳しくないんです」と答えたら「うちの局で演歌をあなたに担当してもらうことはありませんよ」と冷たく返された。
入社するとすぐに肩掛け式のデンスケを渡され、街頭インタビューに放り出された。
