「ミスターFM」と呼ばれた男、後藤亘氏。戦後の混乱期に反骨魂を胸に、ラジオの世界で革新を続けた経営者の評伝『反骨魂 後藤亘 「ミスターFM」と呼ばれた男』(文藝春秋)が刊行された 。
黎明期のFM放送を牽引し 、伝説の深夜番組『JET STREAM』を立ち上げ 、ついには経営危機に瀕したTOKYO MXテレビの再生まで成し遂げた後藤氏の知られざる挑戦と人間哲学を、本書から4回にわたって抜粋して紹介する。(全4回の4回目/最初から読む)
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起死回生の一手となった「低予算・劣化しない」アニメ番組
改革の手始めとして、後藤は経営体制と番組編成の大幅な見直しに着手する。
まずは、ニュース主体だった編成を変えていく必要があった。ただ予算は限られており、その枠の中で局の顔になりそうな番組を探っていく。
そこで編成上の新たな柱のひとつとして上がってきたのがアニメだった。
「これからの時代、アニメなら勝てます!」
若手の局員からの攻めの提案がきっかけだった。
かつてアニメには「オタク」という言葉に象徴されるマイナーなイメージがつきまとった時期もあったが、いまや海外でも日本のアニメは人気があり、世界で注目される日本が誇るべき文化に成長しつつある。思えば、テレビで育った世代には、人それぞれに子どもの頃に楽しみに見ていたアニメ番組があった。
アニメファンはもとより、懐かしがって見てくれる視聴者も必ずいる。テレビアニメには大人になって見返しても胸を躍らされる名作が目白押しだった。
アニメは劣化しない。
比較的低予算で流すことができるのも大きな魅力だった。後藤はすぐにアニメ作品を編成に取り入れていく。
「アルプスの少女ハイジ」「ハクション大魔王」「みなしごハッチ」「いなかっぺ大将」といった懐かしのタイトルから、野球漫画の不朽の名作「タッチ」、まで、数多くの名作アニメを再放送していった。
アニメ番組を積極的に放映していくことで、東京MXテレビは徐々にアニメ業界からも注目されるようになり、後には数多くのオリジナルの作品を生み出していくことになる。
そこでは作品のクオリティの維持を最優先して、どんなに完成が遅れても枠を空けて視聴者と一緒に待つという姿勢を貫いた。そうして、小さな局ならではの編成の柔軟性を生かしてアニメ業界との信頼関係を築いていった。
