ムン 「なんでこんな簡単に人を殺せるの?」って。「怖い。自分もこうされるかもしれないから気をつけよう」と思いました。
でも「韓国のドラマを見ることは殺されるようなことなのかな」とすごく気になっちゃって。これまで興味なかったのに、ドラマをこっそりと見るようになりました。
「この国はおかしいんじゃないかな?」
――当時、韓国のエンタメを見ることは黙認されていたんですか。
ムン 絶対にダメ。仲のいい友人と2人で見ることもありましたが、基本的にはひとりで見ていました。北朝鮮の怖いところは、バレた場合に「反省文に同じことをしている人の名前を書いたら許す」と言われること。連帯責任になるからたくさんの人と見ることは避けていました。
――その後は無事に過ごせたんですか。
ムン 2008年に平壌商業大学へ進学できました。
その1年後に金正恩が後継者として名前が出たんですけど、高層住宅を建設するプロジェクトが始まったので、建設作業の現場でずっと働いていたんですよ。マスゲーム(多人数が集まって体操やダンスなどを一斉に行う集団演技)なども行われる「アリラン祭」の公演にも参加しなければいけなくて。リーダーが変わったことで新しく暗記しなければいけない歴史が増えたし、それも不思議な内容が多かった。
大学ではテストもたくさんあります。合格しないと卒業できないんですけど、勉強する時間も取れなくて。卒業するまでに7年間もかかりました。
「脱北」という言葉は知りませんでしたが、「この国はおかしいんじゃないかな?」とちょっとずつ思うようになりました。
写真=佐藤亘/文藝春秋
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。
