袋小路の先に、新しい景色が見える
住田:最後に一つ、小川さんにお聞きしたいことがあります。長編を書き進めていると、途中で全然違う方向に行ってしまうことがあるのですが、そういうことはよくあるのでしょうか?
小川:僕はそればっかりです(笑)。書き進めたからこそ見えてくる景色や、調べていく中で「こっちの方が面白い」と気づくことがある。構想した段階では思いつかなかった方向へ進むことこそ、僕は一番大事にしている感覚です。
もちろん、それを一つの話としてまとめるのはすごく大変です。僕も以前『ゲームの王国』の時に、面白そうだと思って進んだ道が行き止まりで、また元の地点まで戻る、というのを何度も繰り返したことがあります。実際の小説の分量よりボツにした原稿のほうが多いくらい。でも、袋小路で必死にもがいた時に見た景色は、自分の血肉になっていると思います。
住田:袋小路を袋小路だと結論づけること自体に勇気が要りませんか。
小川:そうなんです、だから最初は粘るんです(笑)。でも何度も書き直したりしているうちに、自分の原稿が死んでいることにうすうす気づいていくんですね。その経験のおかげで、『地図と拳』の時には「こっちの道は良さそうに見えるけど、多分行き止まりだな」という直感が働くようになりました。
大変なんですけど、そうやって書いたほうが、自分では思いつけなかったはずの話を書けたりするんで、住田さんにもぜひチャレンジしてほしいですね。
対談の様子は「文藝春秋PLUS」でご覧いただけます。