「元に戻れるのか不安です」――信用金庫に勤める藤井貴之さん(51歳)は、順調なキャリアを歩んでいた。だが2020年を境に、責任感とストレスからうつ病を発症。眠れず食べられず、体重は10kg減少。通勤途中に帰り道が分からなくなり、休職を余儀なくされた。彼の人生を暗転させた「ある事件」とは?
社会問題化しつつある「ミッドライフクライシス」(中年の危機)に直面した50代を追った、増田明利氏によるルポルタージュ『今日、50歳になった―悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)から一部を抜粋してお届け。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全3回の1回目/続きを読む)
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「まさかうつ病になるとはねえ……」
池袋駅近くにある精神神経科のクリニックを出た藤井さん。この後は調剤薬局で内服薬を貰うだけ。
「まさかうつ病になるとはねえ……。通院するようになってそろそろ4か月になります。先生からは確実に良い方向に向かっていると励まされたのですが、本調子にはほど遠い感じです。元に戻れるのか不安です」
藤井さんは都内の信用金庫に勤めている金融マン。都内城南地域の支店で渉外担当の中間管理職としてバリバリ働いていた。
「自分で言うのは手前味噌ですが業務成績は良かった。半年ごとの査定ではずっと上の中以上の評価でしたから」
入社以来3~4年の間隔で異動があったが、どこの支店でも結果を残してきた。
昇進、昇格も同期の中では第一選抜組。サラリーマンとしては順風満帆だった。
