2012年、女性従業員2人がヒグマに殺害される「秋田八幡平クマ牧場事件」。体重250~300kgのクマ6頭が脱走し、凄惨な被害をもたらした背景には、目を覆いたくなるような“劣悪な飼育環境”があった。廃園が決定した直後に起きたこの悲劇の全容を紹介する。明治、大正、昭和、平成、令和に起きたクマにまつわる事件を網羅した『日本クマ事件簿』(三才ブックス)のダイジェスト版をお届けする。

人間の怠慢が招いた「クマ事件」とは――。写真はイメージ ©getty

「クマが逃げた!」

 事故が起きたのは、秋田県鹿角市の「八幡平クマ牧場」。1987年に開園したこの施設では、ヒグマやツキノワグマなど合計34頭が展示されていた。事件当日の2012年4月20日、女性従業員のT(75歳)とS(69歳)がクマたちにエサを与えていたところ、午前9時30分頃、「クマが逃げた!」というTの叫び声が響いた。駆けつけた男性従業員が見たのは、Tがクマに襲われる光景と、すでに倒れて返事のないSの姿だった。

 脱走したのは体長1m50㎝~2m、体重250~300㎏前後のヒグマ6頭。事故現場の「運動場」と呼ばれる飼育スペースでは、除雪した雪を投棄していたため壁際に雪山ができており、クマたちはそこを登って脱走したとみられる。猟友会会員は「女性を、エサを取り合うように引っ張り合うクマの姿が見えた」と証言している。

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 この事件の背景には、施設の劣悪な管理・経営状況があった。「八幡平クマ牧場」は赤字続きで、従業員はわずか3人。クマたちへのエサは大館市立総合病院から週3回、患者の食事残飯約50kgが提供されていたが、「それでも足りているようには見えなかった」という。