女性従業員2人がヒグマに殺される「秋田八幡平クマ牧場事件」はなぜ起きたのか? 体重250~300㎏のクマ6頭が脱走した理由を、新刊『日本クマ事件簿』より一部抜粋してお届け。

「あれでは人を襲っても仕方がない」という証言もあるように、そこには目を覆いたくなるような“劣悪な飼育環境”があった。(全2回の2回目/前編を読む)

中には共食いをするクマも…最悪の人災「秋田八幡平クマ牧場事件」はなぜ起きたのか? 写真はイメージです ©getty

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廃園が決定した直後の事件

 事故が起きたのは、秋田県鹿角市にあった1987(昭和62)年開園の観光牧場「八幡平クマ牧場」。場所は、十和田八幡平国立公園・八幡平地域そばの国有林内。鹿角市中心街から南へ約30㎞離れた山間部で、施設は国道341号沿いにあった。

 そこにはヒグマ、ツキノワグマ、コディアックヒグマが合計34頭展示され、クマの飼養場が複数あり、入園料は大人500円、小学生以下300円、園内ではクマのおやつ販売なども行っていた。豪雪地帯ということもあり10月下旬から4月下旬までの冬期は閉園。この冬期閉園中に事故は起こり、しかも経営悪化により秋には廃園が決まっている矢先の出来事だった。

 34頭の管理は、女性従業員・T(75歳)とS(69歳)、男性従業員・U(69歳)のたった3人で行っていた。20日午前8時ごろ、3名は牧場に出勤し、事務所でテレビを見るなどして30分ほど過ごした後、女性従業員二人がクマたちにエサを与えていた。その後男性従業員のUは通路を除雪していた。午前9時30分ごろ、Tの「クマが逃げた!」という叫び声が聞こえたので、男性従業員のUが飛んで行くと、Tがクマに襲われ噛みつかれている、という状態だった。

 男性従業員のUがSに目をやり声をかけると、すでにSは倒れており返事もないため、最悪の事態が起きたと男性従業員のUは施設の外へ出て、経営者でのちに業務上過失致死の容疑で逮捕されたN(68歳)に連絡。Nが午前10時過ぎに119番通報を行った。

「壁を乗り越えるクマ数頭を目撃した」

 事故現場は屋外の「運動場」と呼ばれる飼育スペースで、そこは地下に掘る形で造られ、壁面を高さ約4.5mのコンクリートで固め、中は二つの仕切りにより三つのスペースに分けられていた。コンクリート壁面の上には一部、高さ約70㎝の柵も設置されていた。運動場のうち一つのスペースに、除雪した雪を投棄していたため、壁際の角に雪山ができており、そこを登ってヒグマ6頭が運動場の外へ出たものとみられた。

 駆けつけた猟友会会員や警察、消防署員が国道側から施設を見下ろすと、凄惨な光景が目に飛び込んできた。猟友会会員は「女性を、エサを取り合うように引っ張り合うクマの姿が見えた」と言い、消防署員は「壁を乗り越えるクマ数頭を目撃した」と話している。