いま再び、俳優・夏帆の時代がやってこようとしている──。
ここ数年はずっと、そんな予感に満ちていた。『架空OL日記』シリーズ(読売テレビ・日本テレビ系)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、さらには『ホットスポット』(日本テレビ系)など、バカリズムが脚本を手がける作品たちでの好演に触れたときもそうだし、『silent』(フジテレビ系)が大きな注目を集めたときもそうだった。演技者として堅実にキャリアを重ねるその姿は、ずっと、予感に満ちていた。
けれどもそれがこの秋、ついに確信に変わった。そう、夏帆が主演を務めるドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)が放送中であり、この作品における彼女がとにかくいいのだ。
夏帆の演技に対しても、作品そのものに対しても、視聴者の反応は回を重ねるごとに上り調子。数ある主演作の中でも代表作になるのは間違いない。
「応援したくなる」夏帆の大胆な“イメチェン”
放送中の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、夏帆と竹内涼真がダブル主演を務めるロマンスコメディ。「女性はか弱い存在なんだから男が守るべき」「料理は女性が作るのが当たり前」といった、いまどき珍しい亭主関白的な価値観を持つ海老原勝男(竹内涼真)と、そんな彼の理想どおりの彼女の役をまっとうすることに全力を注いできた山岸鮎美(夏帆)の関係性の変化を描いていくものだ。
鮎美は勝男にとって、非常に献身的に尽くす彼女。しかも料理上手だ。勝男はそんな鮎美との幸せな家庭を築くため、万全の準備を整えてプロポーズ。人生をともに歩んでいくのは、お互いにこの関係しか考えられないはず。が、鮎美は勝男に別れを告げて去っていく。いまの自分の生き方に、疑問を抱くようになったからだ。
この“鮎美=夏帆”の姿を応援したくなる視聴者は多い。それまで彼女は静かに、けれどもたしかに、抑圧され続けてきた。その彼女が主体性を獲得し、勝男のためではなく、自分自身のために生きていくようになる。それまで抑え込んできた自分の欲求というものに、目を向けるようになっていくのだ。
こういった変化を、夏帆は表現している。そこには無理がなく、とてもナチュラルだ。黒髪からピンクの派手髪へと変化したときは驚いたが、それは少し大胆なイメージチェンジをした友人と再会したときの、あの感じに近い。そう、このドラマの夏帆は、なんだか友人のようなのだ。それも、古くから付き合いのある友人だ。
鮎美に対して親近感を覚えたり応援したくなるのは、もちろん夏帆の演技に拠るところが大きい。でもそれ以上に、夏帆という俳優の歩みがそうさせているのだと思う。彼女と同じく平成初期に生まれた筆者は、その歩みをずっと追いかけてきた。古くから付き合いのある友人のようだと先述したのは、そういう理由からである。

