新宿・歌舞伎町の早朝、冷たいアスファルトの上にうずくまる老女の姿があった。一見するとホームレスに見えるその女性は、実は「春を売る女」だった。ノンフィクションライター・高木瑞穂氏の取材で明らかになった、60代を超えても路上売春を続ける「名物立ちんぼ」の知られざる人生に迫る。
満面の笑みで「ホテルですか?」
老女は立つのではなく、終始うずくまっていた。
周囲に背を向け、黒色のワンピースの上から淡い色のフリース素材のジャンパーをまとい、白髪交じりの長い髪で顔を隠すようにして小さくなっていた。使い古した大きめの紙袋とナイロン製のエコバッグを両脇に置き、新宿・歌舞伎町の路上で客を待っていた。
「何をしてるんですか?」と声をかけると、老女は「えっ、はい、ホテルですか?」と満面の笑みで応える。そして驚くべきことに、5千円、いや3千円でもと売春の交渉をしてきたのだ。
老女・久美(仮名)は、取材のために訪れたラブホテルの一室で「先にお湯をためてきますね」と告げ、静かに服を脱ぎ始めた。痩せ細った体に刻まれた無数のシワは、彼女が語る「50代前半」という年齢を明らかに超えていた。実際には少なくとも60歳以上だと容易に推測できる。
「本当はもう少し上」と年齢をはぐらかす久美さん。「いつもはデリヘルのマニュアルにあるように客の体を洗ってあげている」と語り、風俗での経験をうかがわせた。
