新宿・歌舞伎町、午前9時。冷たいアスファルトの上にうずくまる痩せ細った老女がいた。カラダで背中を丸め、白髪を垂らし、誰とも目を合わせない。通り過ぎる人は皆、彼女をホームレスだと思う。しかし、彼女は“路上で春を売る女”だった──。ノンフィクションライター・高木瑞穂氏が出会った、60歳を超えても売春をやめない「名物立ちんぼ」として知られる彼女の人生とは? 文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/続きを読む)
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その老女は、立つのではなく終始うずくまっていた。しかも、周囲に背を向けるようにして。だから、まさか老女が街娼だとは。ホームレスに違いない。誰もが抱くこの印象は間違いであり、あるがまま“現在地”新宿歌舞伎町・ハイジア・大久保公園外周で春を売る仕事をしていたのだ。
満面の笑みで「えっ、はい、ホテルですか?」
2023年2月初旬、無数の鉄柱で仕切られた大久保公園の四方を囲む路上の一角──。この日の出立ちは、黒色のワンピースの上から淡い色のフリース素材のジャンパーをはおっていた。使い古した大きめの紙袋とナイロン製のエコバッグを自分の両脇に置き、白髪交じりの長い髪で顔を隠すようにして小さくなっていた。
老女のことを語る前に、“現在地”はどんな状況なのかをいま一度、記したい。
街娼たちの年齢層は、これまで20代半ばから30代の、コロナ禍になり仕事からあぶれたキャバ嬢や風俗嬢たちが中心だったが、2022年夏以降、10代後半から20代前半が目立つというありえない現象が起きている。それも平日で15人から20人、週末ともなれば30人以上が散見された。
様相はガラリと変わりホス狂い──それも、風俗経験のない学生やOLまでもが立つようになったのである。風が吹けば桶屋が儲かるとはよくいったもので、売春を供給する女性が増えると、また買春客も増えた。つまり現在地はいま好景気に沸く。
