個別指導が終わり、サトルさんは学年職員室を後にしたが、その時も出口でサトルさんが涙を拭っているのをZ教諭は目撃している。
Z教諭は残る5つの宿題と通知表を家に置き忘れただけなのか、実際に宿題が終わっていないのかは確認していない。にもかかわらずZ教諭は当日中の提出を命じている。
裁判官に「どれくらいの時間で持ってこられると想定したか」と聞かれ、Z教諭は「半日くらい」で十分だと思ったと回答している。
「そもそも宿題をしてないのか、提出しなかっただけかは把握してないが、ギリギリ当日中に提出できると思っていた。クラスメイトのノートを写すなどして他の生徒も提出していたので。提出できないなら、相談にくると思っていた」
Z教諭は、強い口調で宿題を当日中に提出せよと命じる一方で、「提出できないなら、相談にくるだろう」と思っていたという。しかしサトルさんは当日中に宿題を提出しなければならないと感じ、そして命を絶ってしまった。
「個別指導と自殺の関係は思い当たらない。自分が原因だとは思っていない」
個別指導の4時間後、Z教諭は教室にサトルさんのカバンだけがあることを不審に思いアカネさんと連絡を取った。そしてサトルさんの自宅へ向かい、そこでサトルさんが亡くなっているのを発見している。その時についても「個別指導との関係は思い当たらない」と因果関係を否定した。
「(サトルさんの遺体を発見したとき)『まさか』、『なぜ?』と思った。個別指導と自殺の関係は思い当たらない。自分が知らないところで何かがあったと思った。自分が原因だとは思っていない」
内閣府の「自殺対策白書」などでも指摘されている通り、夏休み明けの自殺が起きやすいのはもはや教育現場では常識である。それでもZ教諭は、サトルさんの自殺の原因について首を傾げた。
「夏休み明けの自殺が多い傾向なのは、友人関係のトラブルからではないか。サトルさんは不登校になったり、いじめにあったことはない。(中略)夏休み明けだからといって、ストレスを避けるようなことはしておらず、いつも通りの指導をした。忘れ物が続く生徒には『何かあるのかな?』と思ったが、一回一回の生徒に対しては思わなかった」
Z教諭の証言を法廷で聞いていたアカネさんは、「言っていることに一貫性がない」と怒りを露わにした。
「とにかく悔しいという思いでいっぱい。こんな人に息子を預けていたなんて……。尋問で初めて直接話しているのを聞いたが、息子は怖かっただろうと思った。大声を出されて、頭が真っ白になったのだと思います。さらに急に進路の話になって、絶望的になったのではないか」
Z教諭の指導についても、その異常性を指摘した。
「大声で怒鳴る、机を蹴る、椅子を振り上げる……。社会一般ではパワハラと言われることを、『指導』で済ませてほしくない。先生は正しいと思っているが、やられたほうの記憶には残ってしまう。息子と同じ苦しみを味わっている子たちには、死を選んでしまわないように自分を責めないでほしいと伝えたい。先生たちも不適切な指導で亡くなってしまう命があることを知って、子どもたちを守ってほしい」
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

