2012年(平成24年)、関西地方で26歳女性が恋人の30歳男に包丁で50カ所以上刺される事件が発生した。男は無職で借金まみれ、女性などの名義で800万円以上を騙し取っていた。事件前、女性が別れを決意すると激昂し、復縁を迫って襲撃。いったいなぜ事件が起きたのか? 前編では、男の経歴、事件が起きるまでの状況について迫る。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/続きを読む)
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身分証も持たず20代で路上生活者に
西田聡(30)は4人兄弟の長男として生まれたが、まるで責任感がない男だった。高校中退後、ギャンブルに狂って遊びまくり、その借金を両親に尻ぬぐいさせ、「女ができたから」と実家を出て行った。
結婚後、2児をもうけたが、ギャンブル癖が治らないことから、妻にも愛想を尽かされて離婚。1児を引き取ったが、その世話を両親に押し付けて、自分は流れ者のような生活をするようになった。
気ままな生活の代償は、社会生活との決別だった。保険証も免許証もない西田は、あらゆる場面で「身分証の提示」を求められると対応に困り、役場で住民票も取得できず、アパートも契約できないため、20代にして路上生活者になった。
そんな人間を雇用する企業もなく、ネットカフェなどを渡り歩き、周囲の人間を騙して金を得る詐欺師になった。
被害者女性との出会い
そんなときに知り合ったのが被害者の杉浦華代さん(26)だった。当時は音大に通う女子大生。西田とはバンド活動をしていたとき、その周辺者として知り合った。
「オレの父親はレコード会社社長。ミュージシャンの発掘を手伝っている。いずれは専務になる予定だ」
「今は母親が経営する居酒屋でアルバイトしている。実質的な経営は任されているので、社長も同然だ」
こんなホラ話で気を引き、西田は華代さんと付き合うようになった。華代さんとホテルに入ると、そこで入浴や食事も済ませていた。西田としては遊びのつもりだったが、意外にも華代さんが自分にとってうってつけの人物であることが分かってきた。
田舎の旧家の2人姉妹の次女で、姉は結婚するために家を出て行き、実家は婿養子を欲しがっていた。広大な宅地と田畑があり、西田は実家に招かれるようになると、「自分にできることがあれば、何でも言ってください」と言って、農作業などを手伝い、華代さんの両親や祖父母にも気に入られた。
西田は“将来の婿”として、華代さんの実家に頻繁に泊まるようになった。
