8月4日、京セラドーム大阪で行われた対阪神タイガース12回戦。8対8で迎えた延長11回表、ヤクルトは上田剛史のタイムリーで1点を挙げ、その裏からは頼れる守護神・石山泰稚が登場。「よし、これで勝った!」と思ったヤクルトファンも多かったことだろう。しかし、ワンアウト後に阪神の代打・原口史仁がヒットで出塁。続いて糸原健斗が登場すると事態は一変する。
「ひとつのミス」から考えたこと
この場面で糸原の放ったレフトへの飛球を、試合途中から守備に就いていた三輪正義が後逸したのだ。これで同点。打者走者の糸原は一気に三塁へ進み、続いて登場した北條文也がレフトへ犠牲フライ。何ともあっけないサヨナラ負けを喫してしまった。勝敗が決し、外野からベンチに戻る際に、テレビモニターを通じてもハッキリわかるほど三輪は憔悴していた。その目は潤んでいるようにも見えた。
敗戦の要因を探すとすれば、「三輪の凡プレー」ということになるのだろう。実際に、試合後しばらくの間は、僕自身もむしゃくしゃした思いは消えなかった。その日の夜、改めて「その場面」を確認しようと『プロ野球ニュース』を視聴する。すると、驚いたことにその場面は流れなかった。5時間11分のロングゲームとなったことで、編集が間に合わなかったのだ。その日は何ともモヤモヤした思いを抱えたまま、酒を呑んで寝た。
そして、その翌日の『プロ野球ニュース』で、「まずは昨日お見せできなかった場面を」ということで、一日おいて「その場面」を見ることになった。なるほど、再度確認してみても、打球に対する三輪の判断ミスであるのは疑いようもない。致命的なミスが出て、それでも勝てるほど勝負の世界は甘くない。負けるべくして、負けたのだと、僕は改めて理解した。
……しかし、自分でも意外だったのは、一晩時間をおいて冷静になれたせいなのか、予定以上のアルコール摂取のせいなのか、あれほどむしゃくしゃし、モヤモヤしていた思いが、このときにはすっかり消え去り、「この失敗は、改めてグラウンドで取り返せ!」と、むしろ三輪に対して、前向きな思いを抱いていたことだった。
三輪のエラーで思い出した「ある試合」
そして、ふいに「ある場面」が頭をよぎった。あれは日差しの強い、神宮球場でのデーゲームだった。手元の記録を探ってみると、それは16年6月26日の対中日ドラゴンズ戦だった。この日、僕は神宮のライトスタンドで観戦していた。ヤクルト先発の杉浦稔大が6回まで好投し、7回をルーキ、8回を秋吉亮が中日打線を封じ込め、4対1で迎えた9回にはバーネットに代わる新守護神・オンドルセクへとつなぐ万全の継投を見せていた。
しかし、この日のオンドルセクは大乱調で、あっという間に一死満塁の場面を作ってしまう。そして「事件」は起こった。中日の代打・谷哲也の放ったレフトへの打球を、途中から守備に就いていた比屋根渉が打球判断を誤って後逸し、塁上の走者が一気にホームイン。あっという間に同点に追いつかれてしまったのだ。僕は西日がきつくなり始めていたライトスタンドでイライラしていた。
(何やってんだよ、比屋根……)
オンドルセクは何とか後続を打ち取って、試合は延長戦にもつれこむこととなった。このとき、ベンチ内でオンドルセクが大暴れをし、真中満監督に暴言を吐いてクラブハウスへ強制送還され、一方の比屋根が半べそをかいていたことは、帰宅後に見た『プロ野球ニュース』で知った。
しかし、この試合でヤクルトは勝利する。延長11回裏、一死満塁の絶好機で代打で登場したのが三輪だった。ここで三輪は中日の守護神・田島慎二からセンター前にサヨナラタイムリーヒットを放ったのだ。歓喜するヤクルトナインが一斉にベンチから飛び出してくる。しかし、ヒーローである三輪の下には誰も駆け寄らず、サヨナラのホームを踏んだ三塁走者・川端慎吾をもみくちゃにしていた。一、二塁間で「ヒーローはオレだ!」アピールをする三輪。なおも、あえて三輪を無視し続けるヤクルトナイン。実にほほえましい光景だった。
このとき、三輪は比屋根のミスを帳消しにしたのだ。つい一時間ほど前には、「比屋根、何やらかしてんだよ!」とささくれ立っていた思いが、三輪がヒーローインタビューで放った「誰にも期待されていないんで」とか、「どうせ打てるとは思っていなかったんで」という自虐的コメントに一気に癒されていたのだ。