「過疎地に復興はいらないなどと…」

 シンガーソングライターの七尾旅人さんも詩を寄せた。黒瓦に釉薬で書き、石川県内の九谷焼の窯で焼いた。能登の被災地には「過疎地に復興など必要ない」という言葉がSNSなどで投げつけられた。私も奥能登の小集落の被災者に「私達はもう日本に必要ない人間かもしれないね」と寂しげに言われたことがある。

 七尾さんの詩は「過疎地に復興はいらないなどと/こんな美しきものの生まれ故郷に……」と力強く書かれており、過疎地の側から反論する熱いメッセージだ。

『叫び声』(七尾旅人作)。シンガーソングライターが被災地への思いを込めて書いた。「過疎地に復興はいらないなどと/こんな美しきものの生まれ故郷に/もしそこが過疎地なら/日本列島の殆どは過疎地だ」などという詩を瓦に描き、石川県内の九谷焼窯で焼いた(海浜あみだ湯)

 作家の中には繰り返しボランティアに来ている人もいる。古着や家具などを素材とした立体作品で知られる池田杏莉さんだ。割れた瓦に白い和紙を張り、被災地で会った人々の姿をドローイングした。今はまだ見えにくいが、時間の経過で和紙の色が褪せると、描かれたものか浮かび上がる。企画をした石川さんは「時間が物事を解決していくという側面もあります」と作者の思いを代弁する。

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展示作品『それぞれのかたりて/あしたも おはよう』(池田杏莉作)。作者はボランティアで何度も奥能登を訪れていて、割れた瓦に張りつけた和紙に、被災地で会った人々の姿をドローイングした。今はまだ見えにくいが、時間の経過で退色すると浮かび上がるという(海浜あみだ湯)

 大和楓さんは、能登瓦の歴史を前面に打ち出した。2025年夏、珠洲に滞在して調査を行い、『ぽよぽよ新聞』に記したのだ。2021年から「新聞」の形で作品を発表しており、その2025年10月号、11月号、12月号にまとめた。

展示作品『ぽよぽよ新聞 瓦版』(大和楓作)に記事が出た大礒恵美さん。海浜あみだ湯では番台に座る

 宮崎竜成さんは能登瓦を砕いた粉末を絵の具にして能登の風景を描く。展示期間中に「海浜あみだ湯」で制作し、その過程も作品の一部だ。

瓦でつくった「キリコ」のアートも

 銭湯の運営責任者、新谷健太さんも出展した。新谷さんは一緒に珠洲市へ移住した楓大海さん(34)と2人でアートユニット「仮( )-かりかっこ-」を結成しており、このユニットとしての作品だ。

展示作品『仮(切籠)』は、新谷健太さん(左)と楓大海さん(右)の2人で結成した「仮( )-かりかっこ-」作。大きな箱形の灯籠「キリコ」を担ぐ「キリコ祭」は、夏場に奥能登の各地で催される。地震で壊れて廃棄するしかなかったキリコや、暮らしを支えた配管の廃材なども使って制作した(海浜あみだ湯)

 奥能登では夏、各地でキリコ祭りが行われる。箱状のキリコ灯籠を担いで練り歩くのだ。「キリコにだけは帰省する」という出身者がいるなど、地元の人にとっても、能登に縁がある人にとっても、魂を揺さぶられる祭になっている。

 だが、能登半島地震で多くのキリコが損壊した。収納していた倉庫ごと失った地区もある。人々の落胆は大きかった。

 新谷さんと楓さんは、被災したキリコや神棚、配管など、祭だけでなく生活に密着した廃棄物も使って「キリコ」を制作した。「海浜あみだ湯」の外で作っていると入浴客が見る。

展示作品『仮(切籠)』(新谷健太さんと楓大海さんのユニット「仮( )-かりかっこ-」作)。「キリコの太鼓を叩くスペースには瓦を配置し、叩くと音が出るようになっています」と新谷さん(海浜あみだ湯)

「最初は怒られるかと思ったのですが、楽しんでくれました。ひと目で『キリコや』と分かる人が多く、『こんな作り方もある』『ここに担ぎ手を入れないと』とアドバイスをもらいました」と新谷さんは語る。

「海浜あみだ湯」は、被災した家屋の廃材も燃料にしている。新谷さんらは住んでいた人から話を聞いたり、その録音を金沢の展示会で流したりしており、「こうして、まちを弔いながら、風呂という癒しを提供しているんだなと思うことがあります」と話していた。

銭湯では倒壊した家の廃材を燃料にしている。新谷健太さんは住んでいた人に聞き取りをしているが、まちを弔っているように感じることもある(海浜あみだ湯)

 さて、「瓦バンク」の活動のもう一つの核となるツアーだ。