お店の女の子に手を出すのは百歩譲って仕方ありません。山さんも男なので、自分の欲望を我慢できなかったのでしょう。ただ、女の子はべつに山さんのことが好きなのではなく、あくまでお金のために会っているのだから、そのお金がもらえなければ怒るのは目に見えています。彼だってそのくらいのことは百も承知だったはずです。
にもかかわらず、踏み倒そうとしたということは、もしかして関係を持つうちに、相手も自分に気があると勘違いし、もうお金を払わなくても大丈夫だと考えてしまったのでしょうか。あるいは向こうも店に内緒で裏引きをしている以上、お金を払わなくても店に告げ口などできないとでも考えたのか。真相は不明ながら、いずれにせよ山さんがうかつだったのは間違いありません。
「金貸し屋で金を借りさせて、払わせたそうだよ」
話を戻しましょう。僕が「よく山さん、百万円もありましたね」ときくと、「店長が金貸し屋で金を借りさせて、払わせたそうだよ。結構高い利子で。山も馬鹿なことしたもんだよ」と教えてもらいました。これもまた僕を驚かせました。
これまで山さんはお店でも重宝されていました。店長や女の子との関係も悪くなく、どちらかというとムードメーカー的な存在だったように思います。しかしひとたび店のルールの『風紀』(店の女の子に手を出すこと)を破ったが最後、店長は容赦なく罰金を取り立てたのです。しかも金貸しに行かせるなど、明らかに違法なやり方で。
翻って僕が同じようなことをすれば、恐らくそれ以上の仕打ちが待っているに違いありません。普段はなんとなく穏やかに仕事をしているのでつい忘れそうになりますが、デリヘルは裏商売であり、万が一の時は、独自のルールで追い込みをかけることも厭わないのです。くわばら、くわばら、肝に銘じて僕は、風紀は絶対にしないと自分に戒めました。