歌舞伎町で“1回3000円”で身を売り続ける久美さん(仮名)が、娘の独立後も路上に立ち続けた理由が明らかになった前編。しかし、久美さんの生活は想像以上に過酷だった──。“彼女の暮らしぶり”と、筆者が最後に目撃した忘れがたい光景を描く。ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の文庫『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む

30年、立ちんぼを続ける彼女の生活とは――。(写真:筆者提供)

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「ネカフェ暮らしすらままならない」彼女の生活

 ラブホテルを退出して解散した翌日のことだ。再び公園で久美さんを見つけ、食事に誘った僕は、久美さんの希望で歩いて数分の距離にある中華料理チェーン店『日高屋』にいた。久美さんが麺類のなかでいちばん安い中華そばを頼んだので、僕も同じものを注文し、ふたりして麺をすする。目的は久美さんの暮らしぶりを知ることだ。

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 こうして関係を深め、久美さんが拠点にしているというネットカフェの個室のなかを見せてもらおう。

「麺類が好きなんです。去年の大晦日は、ちょっと奮発して天ぷら蕎麦を食べました」

 自分へのご褒美じゃないけど、と前置きして語る久美さんだった。

 僕は本題を切り出した。だが、思惑はすぐに弾かれてしまう。久美さんは「いつも24時間料金より安い夜から朝までのナイトパックを利用してるんですよ」と言い、すでに今日も退出していたからだ。

 実際はネカフェ暮らしをすることすらままならなかったのである。