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中継ぎ陣改善の鍵を握る投手とは

 だとすれば、可能なのは第二の策、つまり、中継ぎ陣を改善する事しかない。ではその鍵を握るのは誰だろうか。グラフ1は、このチームの主だった中継ぎ陣の5月下旬以降の防御率の推移である。

出典:オリックスバファローズ公式ホームページ(最終確認2018年8月19日)より筆者作成。

 一見して明らかなのは、中継ぎ投手が如何に大変な仕事か、という事である。防御率は0点から始まるので、その点数が徐々に悪化していくのは仕方がない。だが重要なのはその変化である。例えば、7月中旬まで極めて安定した投球をした吉田一は、7月22日に大量4失点を記録すると、その後急速に防御率を悪化させ、やがて登録を外れる事になった。大量失点、より正確には2点以上の複数失点が中継ぎ投手の好不調の境目であることは山本においても同様である。7月10日に2失点を記録して以降、彼の防御率はコンスタントに悪化し、シーズン序盤の好調とは程遠い状態にある。状況は他の投手も同じであり、「中継ぎ投手は一旦打たれ始めると、そう簡単に元の調子には戻らない」事がわかる。「中継ぎ投手は消耗品」だと言われる所以である(※3)。

 さて、それではどうすれば良いか。厄介なのは、吉田一、山本の穴を埋めてきた山田と岩本が、最近になって打たれ始めている事である。彼らの登板数は依然多くなく、再び好調へと回帰する可能性はない訳ではない。とはいえ経験が乏しい彼らに多くを頼むのは酷であろう。そもそも増井や平野 (※4)の様な長年の極端な酷使にも耐え得る投手は、例外的存在であり、彼らの様な存在を前提に早期の回復を期待するのは楽観的に過ぎる。

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 であれば結局、希望はこのグラフの外にある事になる。つまり、現段階では依然、一軍で登板回数が少なく、ファームにて好調を維持している選手を探し出して起用する事である。そして再びデータを見れば、幸いにしてこのチームにはその該当者が一人存在する事がわかる。それは岸田護、そう嘗てのこのチームの守護神である。今季のウエスタンでの岸田の成績は、登板数24試合で、12セーブ、驚くべきことに防御率は0.00になっている。四死球も故意四球を除けば僅か1になっているから、その調子が極めて安定している事を意味している。

嘗てのチームの守護神・岸田護 ©文藝春秋

 本来のファームは若手養成の場であり、岸田や同じく長らくファームにいる佐藤達の様なベテラン選手が多くの試合に登板するべき場所ではない。ファンサービスにも熱心な岸田は、チームきっての人気者であり、若手選手からの信頼も篤いと聞いている。だからこそ、その復活はチームの士気を引き上げる事に役立つに違いない。

 そして何よりも、シーズン終盤での競り合いとクライマックスシリーズを勝ち抜くためには、彼の様なベテランの経験が必要だ。吉田正や山本の台頭の中、急速に若返りつつあるチームをもう一度立て直すためにもベテランの奮起を期待したい。

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※3 なお、データ上はこのチームにおいては、先の法則の唯一の例外が増井であり、彼は幾度かの複数失点を経ても、防御率を一定の範囲に収めている。増井が長年球界有数のリリーフエースとして君臨して来た理由はこの辺りにあるに違いない。
※4 平野佳寿の2018年シーズンの成績は、8月18日現在で、登板58試合(チーム2位)、防御率2.05である。MLB.com(最終確認2018年8月19日)。平野さんお願いですから戻って来てください。

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