期待利回りの修正

 この計算式で現在の金利をみてみよう。1年前には1.0%程度だった国債利回りは1.7%に膨らんでいる。リスクフリーレートは0.7ポイントも上がってしまったのだ。金利が上昇するということは不動産投資を行う際に借入をするときの借入金利のアップを伴う。そこでリスクを軽減するために投資家の多くはリスクプレミアムをたとえば0.3ポイント引き上げるとする。さてどうだろう。期待利回りは従前の3.0%から4.0%に上げないとリスクがありすぎるという結論になる。

 たとえばこれまでは1億円のマンションを期待利回り3.0%(年間300万円の期待賃料収入)であったものを4.0%に指標を変えた瞬間に投資家は1億円では買わずに7500万円でなければ手を出さないことにつながる。

 すでにじわじわと長期金利が上昇を続けていることは、投資家サイドから見れば、期待利回りの修正を視野に入れ始めることになる。またいっぽうで年間賃料収入を400万円と33%引き上げることに成功すれば、1億円で買っても利回り4.0%が実現できることになる。都心マンションで賃料の値上げが相次いでいるのは投資家の期待利回りの水準が上昇していることの証左なのだ。

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賃貸マーケットは「実需に基づく」

 しかし気をつけたいのは売買マーケットでは投資家の思惑やリスクの取り方、スタンスによって価格が左右されるが、賃貸マーケットは実需に基づく点だ。先述した33%もの値上げを実現できるエリアは少ないし、日本の借家法で手厚く保護されている借り手に対して希望どおりの賃料引き上げを実現するにはハードルが高いのが現実だ。

写真はイメージ ©DESIGN_IMAGE/イメージマート

 さて、どうだろうか。金利上昇の影響は住宅ローン金利のみならず、肝心の不動産価格にも大きな影響を及ぼすことに気づいただろうか。

 残念なことに長期間の低金利政策のためか、日本人の大多数が金利上昇に関してかなり鈍感になっている。挙句には金利なんてずっと低いほうが良いに決まっていると嘯く人まで出てきている。だが物価の根幹をなす金利の存在を軽視してはいけない。低金利状態が今後も延々と続くのならば、まさしく日本は完全な後進国となり、外国人に企業は買収され、不動産を爆買いされ続けることになる。

 そしてその正常化の過程の中に金利の引き上げがあることを忘れてはならないのである。