昨年来、日本銀行による政策金利の相次ぐ引き上げは、これまで「金利は上がらない」「上がるはずがない」といった楽観論を信じて、変動金利型住宅ローンを選択してきたマンション所有者の心をモヤモヤしたものにさせている。
変動金利型住宅ローンの金利に跳ね返ってくる
政策金利の引き上げは金融機関が定める短期プライムレート(最優遇先に貸し出す期間1年未満の金利)に連動している。したがって昨年から今年1月にかけて引き上げられた金利幅分0.5%は、最終的には変動金利型住宅ローンの金利に跳ね返ってくるものと考えてよい。
現在は春の新入学、就職シーズンで物件が最も動く時節であるため、新たに借り入れる人に対して変動金利型ローンの金利を据え置いて、ローン契約数を確保しようという動きもみられるが、これとていったん変動で契約してしまえば、後日に調整すればよいだけの話で、いずれにしても今後の利上げ状況を含めて、返済額が膨らむことは避けられそうにない。
たとえば6000万円のローンを期間35年、元利均等返済、変動金利0.5%で借りている世帯年収750万円のケースでみると、この1年の利上げ0.5%がそのまま金利の引き上げになれば月額返済額は15万5751円から16万9371円に増額していることになる。年間返済額で16万3440円の増加なので日々のやりくりで何とか吸収していくレベルであろう。
だが今後さらに予想される0.5%程度の利上げを加味すると、返済額は18万3710円と当初の返済額よりも2万7959円、年間で33万5508円に膨らむ。年間返済額が年収に占める割合は29.4%と返済限界ゾーンと呼ばれる30%に近付いてしまう。
建設費急騰による大型開発計画の延期、中止も
ところが、話はここで終わらない。負担が増えていくのは金利だけではないのだ。昨今、建設費の急騰で、都内で進む大型の開発計画の延期や中止が話題になっている。品川区の五反田にあるTOC(東京卸売りセンター)ビルは建物の老朽化を理由に建替えを計画。全テナントを退去させたにもかかわらず、建設費高騰から採算が合わないと判断、着工を前にして計画を断念、テナントを再募集してリスタートを切るという苦渋の選択を行った。
また中野駅前の中野サンプラザは建替えて地上61階建てのオフィス、商業、ホテル等の複合ビルと収容人員7000人の新ホールにする計画だったが、やはり建設費高騰を理由に区が計画自体の見直しを発表するに至っている。
新規建物の建設計画への影響ばかりに目が行きがちだが、建設費の急騰は既存マンションの大規模修繕計画にもおおいに影響する。建設費の上昇は建物本体工事費の問題だけでなく、更新する設備自体の高騰、人手不足に伴う人件費の上昇、工期の延長などによる大規模修繕費用の高騰に直結しているのである。