実際に昨今のマンション現場からは、計画していた大規模修繕の実施を延期する、取りやめる、修繕内容を縮小するなどの事例が相次いで報告されている。いずれも積立金額では計画していた内容の工事の実施ができないだけでなく、工事業者そのものがいない、などの深刻な事態を迎えているのである。
修繕計画とかかる費用の乖離…管理費も値上げが必要に
こうした状況から現在、多くのマンション管理組合を悩ませているのが修繕積立金の値上げである。国土交通省では修繕積立金のガイドラインを示している。それによれば、建物の延床面積5000㎡未満のマンションの積立金目安は1㎡あたり335円、5000㎡以上1万㎡未満は252円、タワマンでは同338円などと定めている。しかし多くのマンションでは分譲時にデベロッパー側はなるべく購入者の見た目の負担感を減らしたいとの思惑から、当初はこの基準を大幅に下回る積立額で表示するケースが後を絶たない。
またマンションごとの中長期の修繕計画に、物価上昇などの要素はほとんど加味していないことから、ここにきて修繕計画とかかる費用の乖離が激しくなっているのである。すでに1住戸あたりで月額数千円から1万円程度の大幅な値上げを余儀なくされ、管理組合総会などで紛糾している例も出始めている。
さらに管理費についても昨今の人手不足に伴う人件費の上昇で、値上げを通告してくるマンション管理会社が増えている。管理業務は住民対応のみならず建物の設備点検や清掃、警備など人手を要する業務であることから人件費のアップは管理費を直撃する。
こうしたことから、今後多くのマンションで月額の管理費および修繕積立金が合計で1万円から1万5000円程度値上がりすることは避けられない事態なのである。
年率5%程度の賃上げではカバーできない“増額分”
さて6000万円の変動金利型住宅ローンを組んでいる年収750万円世帯の話に戻ろう。今後の利上げによって、利上げ前よりも1%金利が上がってしまうと、期間中の若干の元本返済分を無視すれば、負担額は月額2万7959円の増加。これに管理費・修繕積立金の増額1万5000円を加えると計4万2959円、年間で51万5508円の負担増になる。
春闘では多くの大企業で年率5%程度の賃上げが発表されている。仮にボーナス2か月分を差し引いた給与年間642万8571円の5%のアップで年間増収分は32万1428円となってもローンおよび管理費・修繕積立金の増額分をカバーできない。加えて増収分に対する所得税、住民税、食費、光熱費、ガソリン代などの相次ぐ値上げに全く対応できないことがわかる。財務省が直接の戦犯であるかは置くとしても、どこかに抗議に出かけたくなる気持ちにもなる。