【大山くまおからの推薦文】
 ドラゴンズの新たなる代打は、文春野球フレッシュオールスターに2年連続出場という離れ業をやってのけたT・サチモスさん! あえて得意の思い出話を封印し、悩める若き大砲について書いていただきました。

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 中日ドラゴンズの「遅れてきた和製大砲」福田永将。22日の試合でも見事な放物線のアーチを放ってみせた。彼の打撃スタイルを見ると、何故かユニコーンのある名曲を思い浮かべてしまう。

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『ヒゲとボイン』

 作詞作曲、奥田民生。バブル真っ盛りの91年リリース。仕事の成功も綺麗な女性も手に入れたいが、なかなかうまくいかない若手サラリーマンの歌である。

「ヒゲ」と「ボイン」の板挟み

「ヒゲ」は「社会的地位や仕事そのものの意」であると認識しているのだが、福田の見るからに窮屈そうなバッティングフォームは「ヒゲを得る為の手段」ではないだろうか、と感じている。

 レギュラーという「ヒゲ」を手に入れる為、苦悩してきた福田は、

①レフト方向に豪快なホームランを打ちたいがため、左肩が開いてしまう
②空振りを恐れ、ボールを迎えにいってしまう
③期待に応えたいがあまり、上体に力が入る

 という課題に対し、

①ボールが見やすい顔の位置の調整
②見やすくすることで開いてしまう肩の位置の調整
③ ①②の両立を可能にする足の位置の調整
④①~③の調整を行うことで入ってしまう余分な力を抜くため、小刻みに肩や左足でリズムを刻む

 という一連の動作を行なっている(と思う)。

 福田のバッティングフォームには決まりごとが多く、また切迫感もあり、やれ「キックオフミーティングだ」「コンプライアンスだ」「PDCAだ」「リスクヘッジだ」といった我々サラリーマンのルーチンワークや日々の煩わしさを連想してしまい、見ているこちら側も息苦しさを感じてしまう。

中日ドラゴンズの「遅れてきた和製大砲」福田永将 ©安藤晴香

 一方、福田の豪快なホームランは「ボイン」だ! 「ボイン」の意は女性や恋愛だけでなく、誘惑・煩悩・楽しいことの比喩である、と解釈しているのだが、福田のホームランは見ていて実に気持ちがよく、ビアガーデンで飲む生ビールのように爽快である。

 パワーヒッターならではの乾いた打球音、力強いフォロースルー、豪快に放り投げたバットに比例するかのように高々と舞い上がる美しい打球の放物線。落下地点に人が群がり、リオのカーニバルが如く盛り上がるスタンド……何度見ても飽きないし、何度見ても私たちを開放的な気分にさせてくれる。

 ドラゴンズファンはいつも福田の「ボイン」を期待するのだが、これまでの福田はそれに応えようとすればするほど「ヒゲ」との両立が出来なくなるループにハマっていき、好調を持続することができなかった。