誰が、上演時間2時間55分の歌舞伎を題材にした映画が、邦画実写映画で歴代興行収入トップになると予想しただろうか。
吉沢亮、横浜流星が出演する『国宝』。
11月24日までの公開172日間で、観客動員1230万人を超え、興行収入は173.7億円に到達。ついに、これまで邦画実写の興収ランキングトップだった『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年/173.5億円)を超えて歴代トップに躍り出た。
長尺映画としては異例の大ヒット
ライバル会社のプロデューサーは、驚きを隠さない。
「もしも、公開1週目にお客さんが入らなかったら、劇場側は上映回数を1日1回に減らしていたでしょうね。3時間近い映画は1日に何度も上映できるわけではなく、回転率が低いので好まれない。
ところが、『国宝』はそうした悪条件を吹っ飛ばした。いまは170億円を超えましたが、テレビからのスピンオフでもなく、マンガ原作でもない実写作品が100億、いや50億円を超えることすら、誰も想像できなかったんじゃないですか」
これから年明けにかけて賞レースの季節を迎えるが、本作は来年のアカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品にも選ばれており、国内から海外へ評価の波が広がっていく可能性もある。
最初の稽古を終えて「これはダメだ」
11月15日からは、監督の李相日と、歌舞伎指導を行い、劇中では吾妻千五郎を演じた中村鴈治郎、そして鴈治郎の長男・中村壱太郎(日本舞踊吾妻流の七代目家元・吾妻徳陽として女方の所作指導を担当)による「副音声ガイド」付きの上映が始まり、新しい楽しみ方もできるようになった。
中村鴈治郎は、もともと原作者の吉田修一が小説を書こうとしていた際に、吉田が黒子として出入りが出来るようにとり計らった。ただ、李相日から「歌舞伎役者でない俳優で『国宝』を撮りたい」と相談を受けた時には、
「は? 自分には『国宝』は作れませんよ」
と答えたと、9月のトークショーで明かしている。しかし、最終的には指導を引き受け、まずは吉沢亮と横浜流星に日本舞踊の稽古から始めさせた。ところが……。

