東京・秋葉原の老舗メイドカフェ「あっとほぉーむカフェ」で、約20年もの間メイドとして活躍し続けるリエさん。クールビューティーな普段着姿とメイド服を着た姿には驚くほどのギャップがある。

 アニメやゲームなどのいわゆる「オタク趣味」とは縁遠く、“萌え系”でもない彼女が、なぜこれほど長くメイドを続けているのか。ライターの徳重龍徳さんが詳しく聞いた。

リエさん ©︎平松市聖/文藝春秋

AKB48、電車男の時代にメイドとして働き始めたが…

 リエさんが「あっとほぉーむカフェ」で働き始めたのは2005年。メイドカフェブームがちょうど始まった頃だ。当時の秋葉原はオタクカルチャーの中心地として注目を浴び始めており、AKB48が人気を集め、ドラマ『電車男』がテレビ放送されていた。

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 一方、その頃のリエさんはアニメやゲームよりもマイ・ケミカル・ロマンスなど激しめの海外音楽に興味がある、いわゆる“バンギャ”寄りの学生だったという。そんな彼女が、どうしてメイドカフェで働くことを決めたのだろうか。

「実はうちの父があっとほぉーむカフェの創業者と知り合いだったんです。それで『今、新しいメイドを募集しているんですが、よかったらどうですか』とお声をかけていただいて。元々バイトを探していたので『制服かわいいし、なんか面白そう』みたいな軽い気持ちでメイドとして働き始めました」

 オタクカルチャーに馴染みがなかったリエさんだったが、秋葉原という特殊な場所の雰囲気にあてられ、徐々に気持ちの切り替えができるようになっていったという。今では120%の全力でご主人様・お嬢様のお出迎えをしたり、食事メニューに愛をこめたりと、「萌え」をやることに全く抵抗がない。

「最初の頃はメイド服やセーラー服を着てご帰宅するご主人様がいらっしゃったりしました。少し衝撃を受けつつも、『秋葉原はやっぱり面白い場所だな』と思いました。みんなが解き放たれて、自分の好きなこと、やりたいことを楽しんでましたね。秋葉原で知らない世界を知れたというか、こういう人たちがいるんだなと自分の価値観が広がっていきました」

©︎平松市聖/文藝春秋

ファンの9割は「お嬢様」、「ガツンと叱ってください」と言う人も…

 かつてのメイドカフェといえば、男性客が中心というイメージが強かったが、現在は客層が大きく変化している。リエさんのファンもなんと9割が「お嬢様」だ。中には、自身の婚約者をリエさんに見極めてほしいと言って連れてくるお嬢様もいるという。

「私にとってはお嬢様がすごく大事なので『もしお相手がお嬢様にとってあんまり良くなさそうだなって感じたら言うけどいい?』と聞いたら『いいよ。リエ様の許可をもらいたいから行くので』と。お相手の方には『うちのお嬢様のことを大事にしてくださいね。何卒よろしくお願いします』と伝えました」

 そんな親身な接客に心を掴まれるファンには、親しみを込めて「リエ様」と呼ぶ人も多いそうだ。本人は困惑しているが、「ガツンと叱ってください」とリクエストするご主人様・お嬢様がいることにも納得がいく。前髪ぱっつんでかわいい“萌え系”タイプが王道のメイド界で、リエさんのようなクールなタイプは貴重な存在なのだ。

 メイドの“職業病”について尋ねると、「メイドは膝が真っ黒になる」のだという。キラキラふわふわしているメイドさんのイメージとは、一見かけ離れた“職業病”だが、一体どういうことなのか。

「オーダーの時やご主人様・お嬢様のお話を聞く時に必ず膝をつくのがルールだったんです。なのでいまだにアザみたいなものができています。これも職業病ですね。でもメイドの勲章だと思ってます」

 会社勤めをしていた時代は、ついうっかり「お帰りなさいませ」と言いそうになったこともあるそうだ。リエさんに会いたくて“ご帰宅”するファンのため、メイド服を着られなくなるまでの間は、ご給仕を続けると語ってくれた。

©︎平松市聖/文藝春秋

<つづく>

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