12人を殺害した夫婦はその後⋯
事態が動くのはそれから5年後の1992年8月のこと。
12歳の少女が知り合いの巡査に驚くべきことを話した。自分の友人で、ウェスト家の当時13歳の娘ルイーズから父親に犯されていると聞かされたのだという。警察は直ちに捜査を行い、フレデリックを娘たちに対する強姦3件、獣姦1件の容疑で逮捕すると同時に、妻のローズも「残虐行為」及び「児童に対する不法性交の奨励」の容疑で身柄を拘束する。
翌1993年6月、ウェスト夫妻は法廷に立たされるものの、証人である彼らの子供たち全員が証言を拒んだため無罪となる。子供らは、両親が自分たちに暴行・虐待を働いていることはもちろん、殺人や遺体損壊にも関与していることもなんとなく気づいていたが、恐怖が彼らの口を固く閉ざしたのである。
しかし、この一件で本来いるはずのヘザーの姿がないことが判明。不審に思った警察がウェスト家を捜索したところ、遺体と拷問の痕跡が発見されたことから、1994年2月にフレデリックとローズを尋問。ヘザー殺害の自供を得る。彼らは「殺意はなかった。事故だった」と主張したものの、その後の捜索で自宅の庭から足が3本出てきた事実を突きつけると、フレデリックは3月上旬までに、ヘザーを含め12人を殺害したことを供述する。
こうしてウェスト夫妻は誘拐・暴行・殺人・死体損壊などの容疑で逮捕される。取り調べでフレデリックは、夫婦で犯した罪の全てを自分一人で背負おうとしてローズには何の罪もないと証言した。ローズもまた、夫に罪を背負わせようとして「自分も被害者の一人である」と証言。結論は裁判に委ねられることになった。
「死刑」になるかと思いきや⋯
しかし、公判が始まる前の1995年1月1日、フレデリックは妻ローズに「新年おめでとう。ありったけの愛をこめて」と書き残し、バーミンガム刑務所の独房で首吊り自殺を果たす(享年53)。
同年2月から始まった裁判でローズは無罪を主張した。が、10件の殺人に関与したとして11月に下った判決は、死刑制度のないイギリスでは最も重い仮釈放のない終身刑。1996年3月の控訴審判決も変わらず、2001年9月、上訴を断念したことで刑が確定した。
ローズはミドルセックス州のブロンズフィールド刑務所に投獄後、ダラム州のロー・ニュートン刑務所に移送、2019年からはウェストヨークシャーのHM刑務所ニューホールに移送され、2025年9月現在も収監中の身にある。