しかし、いま考えると、それもある時期や受賞者に焦点を絞るとそう見えたというだけで、この賞の歴史を通して振り返ると、時の政権に対して受賞語を通してエールを送る一方で、ときには風刺や批判を込めてみせたりと、それなりにバランスがとられてきたとわかる。

小泉純一郎氏(2006年撮影) ©文藝春秋

 そもそも#1で記したように、この賞は「流行語の定点観測」が必要だとの声を受けて創設され、それが42回も続いているだけに、歴代の受賞語を眺めると時代の変化がくっきりと見えてくる。それはこの賞の面白さの一つだ。

 気象に関する言葉だけ見ても、1990年の「気象観測史上(はじめての…)」(特別部門・年間多発語句賞)を嚆矢として、「猛暑日」(2007年)、「ゲリラ豪雨」(2008年)、「爆弾低気圧」(2012年)、「災害級の暑さ」(2018年)、「地球沸騰化」(2023年)といった言葉がトップテン入りし、気候変動がのっぴきならない問題になってきたことがうかがえる。

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 先述の小渕元首相もそうだが、同一人物が複数回にわたって受賞するケースでは、「人に歴史あり」とも感じさせる。たとえば、お笑い芸人のあいだでは「この賞に選ばれた芸人は一発屋で終わる」といったジンクスがあったなかで、とにかく明るい安村は2015年に「安心して下さい、穿いてますよ」のギャグでトップテンに入ったのち、8年の歳月を経て2023年、これを英訳した「I’m wearing pants!」によりイギリスの人気オーディション番組で決勝進出を果たし、ジンクスを打ち払ったとして選考委員特別賞を贈られている。

イギリスのオーディション番組で脚光を浴びた、とにかく明るい安村(本人インスタグラムより)

「流行語が生まれなくなった」という指摘は80年代からあったが…

 新語・流行語大賞をめぐっては、年を追うごとに、ノミネート語や受賞語を知らないという声が増え、ここまで人々の趣味や関心が細分化されると、もう国民的に流行する言葉は出てこないのではないか……といった指摘も毎年のように聞こえてくる。

 しかし、その流れのなかでも、2013年には「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」「倍返し」と歴代最多の4語が年間大賞に選ばれるなど、流行語が“豊作”の年もあるから、一概には言えなさそうだ。今年も前半はトランプ関税や米騒動に関する言葉ぐらいで不作と思われていたのが、「ノミネート語を決めるときには、わりと言葉はあったねと、選考会でも話がまとまった」という(新語・流行語大賞を主催する自由国民社『現代用語の基礎知識』大塚陽子編集長)。

2013年、年間大賞のひとつに選ばれた「じぇじぇじぇ」。授賞式にはドラマ『あまちゃん』主演ののん(能年玲奈)と脚本家の宮藤官九郎氏が登壇 ©文藝春秋

「流行語が生まれなくなった」といった指摘は、じつは新語・流行語大賞の始まった80年代から言われていたことでもある。たとえば、ある新聞記者は当時、「圧倒的な流行語は世の中から姿を消してしまった」と見てこう書いている。