大学時代からトレッドウェルの「奇行」がはじまった。自らを「イギリスの孤児」とか、「オーストラリア出身」などと、虚偽の身の上話を語ることが多々あったという。

大学卒業後にはロサンゼルスに移り、俳優の道を志した。だが俳優としてはうまくいかず、トレッドウェルはアルコール依存症に陥ってしまった(この時、母親の家系にちなんで本名を「Treadwell」に改名した)。

この頃、1980年代後半には多量のヘロインを摂取していたという。

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クマと出会って「人生の使命」を感じる

その後、トレッドウェルは、親しい友人の説得によって、アラスカ州までクマを見に出かけることになった。

トレッドウェルはそこで、野生のクマと出会う。この時彼は自分の人生の使命がクマと結びつけられたと感じたという。

以降、トレッドウェルは毎夏、ハロー湾のカトマイ海岸でキャンプするようになる。一帯を「グリズリー・サンクチュアリ(クマの聖域)」と呼び、クマ(グリズリー)を観察する日々を送った。

トレッドウェルの最大の特徴は、観察対象のクマに極端に接近する点にある。時にはクマに触れられるほどの距離まで近づき、言葉をかける。

トレッドウェルの晩年を取材した、ヴェルナー・ヘルツォーク監督によるドキュメンタリー『グリズリーマン』には、トレッドウェルがグリズリーに手を差し伸べ、鼻先に触れる姿が映されている。

トレッドウェルは出会うクマに名前を付け、関係を築いたと主張。約100時間にも及ぶビデオ映像を記録したほか、多数の写真を残している。

ムツゴロウこと畑正憲氏とまったく同じとは言わないが、同様に狂気じみた思いを感じずにはいられない。

「人生の絶頂期」を迎えるが…

ちなみに、グリズリーとは北米に生息する大型のクマのことだ。ヒグマの亜種の一つで、別名「ハイイログマ」とも呼ばれる。北海道のエゾヒグマとは近縁とされる。毛の先端が白っぽいため、「grizzled=灰色がかっている」ように見えるのが語源とされる。