一方で、極端なまでにグリズリーに接近するスタイルを変えようとはしなかった。こうした点をもとに、トレッドウェルの行動は、彼の中にひそむ自殺願望に由来するものという見方もある。

実際、若いころにアルコール依存症や麻薬使用に苦しんだ過去もあり、彼が精神的な不安定さを抱えていた可能性は否定できない。

だからといって、彼が理想とした野生動物との共生という理念の価値が減じるわけではない。トレッドウェルの悲劇を彼の問題に結びつけることも重要だが、現実的なクマ対策に生かしていくことが必要ではないだろうか。

中野 タツヤ(なかの・たつや)
ライター、作家
出版社で書籍・Web編集者として活躍したのち独立。ヒグマ関連記事を多数手掛けた経験をもとに、日本および世界のクマ事件や、社会・行政側の対応について取材している。tatsu_naka1226@ymail.ne.jp
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