今や日本社会に欠かせない存在となった「働く高齢者」。その実態は想像以上に過酷で、時に驚きに満ちている。
労働ジャーナリストの若月澪子氏が21人の高齢労働者に密着取材した『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)から、特に興味深い「シニアの働き方」の実情を抜粋して紹介する。(全4回の1回目/つづきを読む)
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老後には2000万円の貯蓄が必要なのか
「老後2000万円問題」が最初に取沙汰されたのは、2019年に発表された金融庁の報告書である。それによれば、「高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)では、毎月約5・5万円の赤字が生じ、20~30年間の不足額は約1300万~2000万円になる」という試算が示された。
本当に老後には2000万円の貯蓄が必要なのだろうか。
筆者は家計の専門家ではないが、取材を通じ「この基準はもちろん人による」と感じている。到底2000万円では足りない人もいるし、1000万円も必要ない人もいる。
シニアの中には十分なお金があるのに、爪に火を灯すような生活をしている人がいる一方で、お金がないのに贅沢な暮らしを手放せない人もいる。貯蓄も大事だが、お金の使い方も大事だ。
サラリーマンとして働いてきた人の多くは、60歳を過ぎると収入が激減する。そのタイミングで生活のダウンサイジングに失敗すると、せっかく貯めた2000万円もあっという間になくなってしまう。
マンション管理人の仕事に就いた、上場企業の元営業マン
「最近は老後までに2000万円どころか、5000万円必要という話が出ていますね。そこまでは必要ないんじゃないでしょうか。ただ2000万円はあったほうがいいと思います。旅行や外食、付き合いが多い人は、2000万円でも足りない気がしますが」
こう話すのは2年前からマンション管理人の仕事をしているという、福岡県在住のGさん(67)。チノパンにウィンドブレーカーを身に着けた、ごく普通のシニアである。
Gさんは2年前まで、東証プライムのメーカーに営業マンとして40年以上勤めていた。マンション管理人を始めたのは、65歳の時に雇用延長が切れてからだ。
「本当はそのまま会社に勤めたかったのですが、契約は65歳で終わりでした」
マンションの管理人の仕事はハローワークで見つけた。65歳以上でも採用される仕事は限られている。警備員や高速道路の料金所の係員は夜勤がある。日中に働けるのは、マンション管理人と清掃員くらいしかなかったという。
「マンション管理人の仕事を選んだ理由は、自分のペースでできるから。基本的には自分一人なので、ほかの人に気を遣う必要がなくていいと思いました」
