今や日本社会に欠かせない存在となった「働く高齢者」。その実態は想像以上に過酷で、時に驚きに満ちている。
労働ジャーナリストの若月澪子氏が21人の高齢労働者に密着取材した『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)から、特に興味深い「シニアの働き方」の実情を抜粋して紹介する。(全4回の3回目/つづきを読む)
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玉置浩二のカラオケを配信するおじさんライバー
Oさんの配信は、一人暮らしの自宅アパートから行う。だが夏は猛暑に耐えられず、冬は寒さに震えて、光熱費節約のために別の場所に移動している。
「自宅から徒歩20分くらいのところにあるショッピングセンターから配信している。ここは夏も涼しいから」
Oさんが配信するのはお昼前後。ショッピングセンター内にある、テーブルと椅子が並ぶフリースペースの隅を陣取る。平日の昼はショッピングセンターも空いていて、Oさんがスマホに向かってごにょごにょ話していても、目立たない。
ライブでは1~2時間を世間話と歌でつなぐ。ただ、おじさんの顔を1時間以上眺め続けるほど、リスナーも暇ではない。Oさんの配信を覗いてみたが、聞いている人は誰もおらず、Oさん一人が玉置浩二の『田園』を歌い上げる姿が映っていた。
「フォロワーを増やすには、毎日更新することが必須だから」
というわけで、Oさんは誰も聞いていなくても、毎日スマホに向かって語り、歌う。途中でトイレに行きたくなっても我慢する。
「歌は玉置浩二と中島みゆき、あとは松山千春かな。いい歌ばっかりだよね。中島みゆきの『世情』は最高だよ」
ショッピングセンターで歌っていて大丈夫なのだろうか。
「歌う時はショッピングセンターのバルコニーに移動してる。イヤホンマイクでカラオケを流して歌うの」
おじさんライバーが歌う中島みゆきは、場末のスナックの味わいがある。
「昔、カラオケ機材の営業をやっていたことがあるのだけれど、設置した時にテストで1曲歌うこともあった。上手いですねって取引先から言われたよ」
