今や日本社会に欠かせない存在となった「働く高齢者」。その実態は想像以上に過酷で、時に驚きに満ちている。

 労働ジャーナリストの若月澪子氏が21人の高齢労働者に密着取材した『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新書)から、特に興味深い「シニアの働き方」の実情を抜粋して紹介する。(全4回の4回目/はじめから読む

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『老人介護は蜜の味』AV業界で34年活躍する現役男優

 ここは東京都大久保にある地下スタジオ。この日、宵の口からアダルトビデオ(AV)の上映会が開かれていた。参加者はビデオ制作の関係者やAVファンで、20名弱のこぢんまりとした上映会だ。際どいシーンを短くし、ストーリーが中心の映像に再編集された作品を鑑賞してもらおうという試みだった。

写真はイメージ ©sakai000/イメージマート

 ひときわ背が高く、がっしりとした色黒の男性が会場に入ってきた。圧倒的な華がある。

 今年還暦を迎えたAV男優の佐川銀次さん(60)だ。このAVに主人公の相手役として出演する、この道34年の現役男優である。

 上映された作品のテーマは高齢者介護。タイトルも『老人介護は蜜の味』だ。

女性の艶姿をジーッと眺める「寝たきり老人」の役も

「最近はAVでも、『介護もの』が増えたよね。オレはこの10年で、介護される高齢者役をやる回数が増えたよ」

 上映後のトークショーで銀次さんは、さわやかに語った。実際の銀次さんは「介護老人」とはほど遠く、スラリとしたジーパン姿、落ち着いた色あいのニットを着こなしている。

「介護もの」とは、要介護の老人が女性介護士と……という筋書きが多いらしい。監督が題材のヒントになったというエピソードを紹介した。

「あるスナックで聞いた話なんですが、とある90代の寝たきりの男性が、自宅にデリヘルの女性を呼ぶんだそうです。呼んだところで何もできないんですけど、来てくれた女性の裸をジーッと眺めている。人間は生命の灯火が消えるまで性を求めるのかと思ったことが、この作品につながりました」

 銀次さんはこのAVの中で、女性の艶姿をジーッと眺める、一人暮らしの寝たきりの老人を演じている。この独居老人には哀愁が漂い、AVには留まらないメッセージ性を感じた。