血糖値や尿糖に比べて信頼性が高い検査
【HbA1c】
血液検査で分かる「HbA1c」は、赤血球中のヘモグロビンに糖が結合したもので、これが血液中に、どのくらいの割合、存在しているかを調べる項目です。日頃の血糖値が高いようであれば、当然、ヘモグロビンにも多くの糖がつきやすくなります。
HbA1c が優れているのは、約1~2カ月という長期にわたる血糖値の平均を見られることです。赤血球の寿命は約120日です。新しく生まれ変わるのに時間がかかるので、より長い期間にわたる状態を知ることができるのです。
HbA1c の数値が、「6・5%以上」だと糖尿病である可能性が非常に高い。2024年版の「糖尿病診療ガイドライン」では、「HbA1c が6・5%以上の場合は糖尿病を強く疑い再検査を行う」と書かれています。
ここまで紹介してきた3つの検査項目の中では、HbA1c が、血糖値や尿糖に比べてかなり信頼性の高い検査だと言えます。瞬間的な変動に左右されず、長期間の状態を反映しており、加えて、食事の影響も受けにくいので、測定時間を選ばずに検査できることも大きなメリットです。
通常より低い数値が出てしまうことも……
ただ、HbA1c にも落とし穴があります。
貧血状態であったり、腎機能に異常があったりする場合は、HbA1c が正しい値を示さない可能性があるのです。
貧血だと、赤血球の数自体が減っているので、体は新しい赤血球をどんどん作ろうとします。そのため、赤血球全体の平均寿命が120日よりも短くなってしまう。つまり、糖とくっつくチャンスも通常より少なくなる。結果的に、貧血の場合は、通常よりもHbA1c の値は低くなってしまうのです。
また、腎機能に異常がある場合も、HbA1c の値が、実際よりも低く出てしまうことがあります。腎機能が低下すると、腎臓が分泌している赤血球の産生を促すホルモンの分泌量が減少し、赤血球の産生が抑制されます。その結果、貧血の時と同様に、赤血球の寿命が短くなり、HbA1c の値が低く出てしまうのです。
このように、糖尿病のリスクを正しく把握するためには、一つの指標に絞るのではなく、様々な検査項目を総合して見る目を持つことが大切です。
前述したように糖尿病は「全身病」とも呼ばれ、眼底検査の所見や、足のむくみ・変色なども糖尿病の指標にはなります。ただ、あくまでも今回紹介した「血糖値」「尿糖」「HbA1c」の3つを組み合わせることが、体内の糖分の状態を知る上で大前提となります。
伊藤大介(いとう・だいすけ)
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。
