今年(2025年)5月、五代目尾上菊之助が八代目尾上菊五郎を襲名した。その父親である七代目尾上菊五郎も83歳にしてなおも健在であり、「菊五郎のまま歌舞伎人生の幕を閉じたい」との意向により名前を変えず、2代の菊五郎が同時代に並び立つという異例の襲名となった。
富司純子が80歳を迎えた
七代目菊五郎の夫人にして、八代目菊五郎の母親、そして自身も俳優である富司純子はきょう12月1日、80歳の誕生日を迎えた。富司と七代目の第一子である長女の寺島しのぶも、周知のとおり俳優として第一線で活躍中で、今年大ヒットした映画『国宝』では渡辺謙演じる歌舞伎役者の妻を演じた。その劇中、夫が役者にすべく引き取った孤児を、妻は実の息子と分け隔てなく育ててきたものの、二人が役者として成長してからはどうしても実子のほうに肩入れしてしまう。そんな母親の性みたいなものを寺島が好演していて印象に残る。
現実の寺島も、歌舞伎界に飛び込んだ一人息子の尾上眞秀を見守る身であるという以前に、母親の富司が5歳下の弟を儲けたときからいずれ菊五郎の名跡を継ぐものとして手塩にかけて育ててきたのを見てきただけに、『国宝』の役づくりでもかなり参考にしたのではないか。
「今度は男の子を」というプレッシャーも
富司は1972年に七代目菊五郎(当時・四代目菊之助)と結婚してまもなく寺島(本名・忍)を産んだ。しかし、その後はなかなか子宝に恵まれず、不妊治療の名医のもとに通うなどして、5年後にようやく八代目菊五郎となる長男・和康を儲けた。
それまで、義父母である七代目尾上梅幸夫妻は「元気な赤ちゃんならどっちでもいい。ぜいたくを言うとバチが当たる」と励ましてくれたが、夫の贔屓からは「次のお子様はまだ?」「今度は男の子をお産みにならなくてはね」などと声をかけられ、そのたびに富司にはプレッシャーがのしかかった。それだけに、男児を産んだときの義父の喜ぶ顔を見て、彼女はこれでやっと嫁として認められたのだろうとの思いを抱いたという。
息子を歌舞伎役者にするため、稽古をするよううるさく言うのは母親の役目だ。彼がまだお漏らししても大丈夫なパンツを穿いているときから日本舞踊を習わせ始め、一人で稽古に通えるようになるまでは富司自ら車を運転して送り迎えした。富司は孫の眞秀に対しても、立派な歌舞伎役者になってほしくて、さまざまな習い事を娘の寺島を通じて勧めているという。3年前の母娘の対談では、眞秀が「ばあばが一番厳しい。視線が刺さる」と言っていたと寺島から聞かされていた(『婦人公論』2022年4月号)。



