ユリア、ラオウ、胸の北斗七星は全部「後付け」「こじつけ」から生まれた
連載開始当時、発行部数300万部だったジャンプは、『北斗の拳』の人気で400万部に達したと言われている。それほど圧倒的な人気を誇った作品だが、武論尊さんはほぼすべてのエピソードが「後付け」「こじつけ」で生まれたと明かす。
「連載が始まった時点で、ケンシロウがなんで旅をしてるのか、決まってなかったもん(笑)。 それで、編集者と相談して『どうしましょう、女を追いかけましょうか』『じゃあ誰にする?』『ユリアって名前にしましょう』って感じですよ。 ユリアは誰かに連れ去られてるんだ、ケンシロウはそれを追いかけるんだっていうシーンができて、それからぜんぶ辻褄を合わせるんだ」
ケンシロウの兄、ジャギというキャラを出した後、「ケンシロウっていうぐらいだから、4番目だ。あとふたり、兄貴を作っちゃえ」というノリで生まれたのが、長兄ラオウと次兄トキ。ケンシロウの胸にある北斗七星を象った傷がある理由も、後から考えた。
「最初はファッションだったんだよ、かっこいいからって。でも後になって、シン(ユリアを強奪した男)がやったという話を思いついた時、やっぱすげえな俺って思ったな」
この後付けが、『北斗の拳』の先の読めない壮大なストーリーを可能にしたという。
「結論が先に決まったら、壮大にならないでしょう。 誰も先がわかんないから、その場しのぎで書いてるうちに、壮大になっていくんだよ。行き詰まりそうになっても、今回だけ逃げよう、今回だけ逃げようって、どんどん話を膨らまして。あとね、展開に困ったら新しいキャラクター出せっていう漫画のノウハウがあるんです。そうこうしてるうちに、なんとか次の展開にいくんだよ」
「あんたもう死んでるよ」→「お前はもう死んでいる」に
『北斗の拳』は、わき役を含めて濃すぎるほど強烈なキャラクターと名台詞で読者の心を捉えた。ケンシロウが北斗神拳で敵の秘孔を突いた後に言うセリフ「お前はもう死んでいる」は、読み切り版にあった「あんたもう死んでるよ」に少し手を加えたものだ。
ケンシロウの兄ジャギの「おれの名をいってみろ」や、ケンシロウの最大のライバル、ラオウの「わが生涯に一片の悔いなし」、ケンシロウと死闘を繰り広げたサウザーの「退かぬ、媚びぬ、省みぬ」などは武論尊さんが考え出した。武論尊さんは、これらのセリフを生み出す力こそ強みだと振り返る。
「俺が50年仕事できたのは、セリフが書けたから。俺がまだ生き残ってるのは、それが一番の理由かもしれない。セリフ=キャラクターだから、それだけいいキャラクターを書けてるっていうことでもあるしね」
