全世界での累計発行部数が1億冊を超える、アクション漫画の金字塔『北斗の拳』。2026年には、新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-(フィスト オブ ザ ノーススター)』の放映も決まっている。

  その原作者である武論尊さんは『北斗の拳』の後に池上遼一氏と手掛けた『サンクチュアリ』の連載中、プレッシャーから「もう書けない。このまま書いたらパンクする」と精神的に追い込まれ、北海道の牧場で過ごしたことがあるという。稀代のストーリーテラーが直面したスランプのほか、『北斗の拳』後の武論尊さんの歩みを聞いた。(全5回の4回目/続きを読む)

多作な武論尊さんが、かつて直面したスランプについて明かす(以下、写真撮影=川内イオ)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「絵の力が、本当にすごい。原作者ならみんな、あの色っぽい絵にストーリーを乗っけてみたいと思うでしょう」と武論尊さんが絶賛するのは、池上遼一氏。1962年にデビューし、現在もドラマ化、映画化された大ヒット作『トリリオンゲーム』を連載中の大御所だ。

 あまり知られていないことだが、武論尊さんは『ドーベルマン刑事』や『ファントム無頼』を書いていた1979年に、池上氏と一緒に仕事をしている。それがビッグコミック(小学館)の読み切りで書いた『傷痕(THE SCAR)』だ。

 池上氏とのコラボに力が入った若き武論尊さんは、ラブシーンからスタートする大胆な原作を書いた。これが小学館の上層部の逆鱗に触れ、呼び出されて「お前は池上遼一を潰すつもりか!」と怒鳴られたそう。その後、週刊少年サンデーでもう一度、池上氏とコラボするも反響がイマイチだったこともあり、ふたりは疎遠になっていた。

 ところが1990年のある日、『ファントム無頼』(作画・新谷かおる/1978年~1984年)の担当編集者で、ビッグコミックスペリオールの編集長になっていたKさんから突然「飲みに来い!」と連絡があり、池袋の居酒屋に顔を出したら「池上さん空いたけど、お前やるか?」。過去2回の失敗を経ても「ずっと池上さんの絵で書きたかった」武論尊さんは、「やります!」と即答した。

 居合わせた3人の編集者とともに、その場で打ち合わせが始まる。当時は国内外の政治が不安定化していた時期で、武論尊さんが「政治モノでも書いてみようかな」と呟いた。編集者たちは「面白いな」と賛同しつつ、「政治だけじゃつまらない」という。そこで「ヤクザを乗っけましょうか?」と提案したところ、編集長が「はい、決まり!」。

 1990年4月、ふたりの幼馴染がそれぞれヤクザ、政治家としてトップを目指し、日本を変えようと動き出す『サンクチュアリ』の連載が、ビッグコミックスペリオールで始まる。ちなみにこの時は、史村翔の名義にした。