ヤクザの世界は「自衛隊の世界とまったく同じ(笑)」
『北斗の拳』と同様、『サンクチュアリ』も、行き当たりばったりで書き進めていった。例えば、主人公のふたりがジャンケンで進路を決めるという印象的なシーンがある。このシーンを書いた後になって、主人公のふたりが子どもの頃、カンボジアで内戦に巻き込まれ、命からがら逃れてきたという設定を思いついたそうだ。
「じゃんけんで人生を決めるってことは、このふたり、過去に相当すごい経験をしているってことでしょう。そのすごい過去ってなんだ? っていう話を編集者としている時に、カンボジアのエピソードをいれることになってね。これでいけると思いました」
『サンクチュアリ』では政治家とヤクザ、どちらも一筋縄ではいかないドロドロとした世界が描かれている。漫画でありながらも、読者に「実際にこういう感じなのかも」と思わせるリアリティがあり、だからこそ手に汗を握る展開に胸が熱くなる。ここまで「裏の世界」を描くために相当な取材をしたのだろうと思っていたら、違った。
「ヤクザも政治家も、ひとりも会ったことがないです。一切取材してなくて、ぜんぶ空想だね。ヤクザや政治家が、あんなにかっこいいわけないでしょう。空想だからかっこよく書けるんだよ。
あと、ヤクザは書きやすいんですよ。上からの命令は絶対で、黒のモノを白と言われて、表向きは受け入れながら、腹のなかではぶっ殺してやると思ってる。この理不尽な世界って自衛隊とまったく同じだから(笑)」
空想の産物『サンクチュアリ』は、連載開始から好調な滑り出しを見せた。武論尊さんも大きな手ごたえを感じていたが、プレッシャーもあったのかもしれない。物語が佳境に入るタイミングで、心身が悲鳴を上げる。毎日、こみ上げてくる不安感……。ある日、「もう書けない。このまま書いたらパンクする」と限界を感じ、編集者に休載を申し入れた。
