休載をした限界状態で向かった先は……
向かったのは、北海道の知り合いの牧場。半年間は休むつもりで、漫画のことを頭から押し出すように馬房の掃除などひたすら肉体労働に励んだ。
複数の連載を抱え、ひとりで原作を書いている時は不規則になりがちな生活も、牧場では強制的に朝起きて、夜に寝る生活になる。1カ月もすると体重が2、3キロ減り、気持ちも晴れてきて、3カ月経った頃にはすっかり元気になった。この休載以降、武論尊さんは一度も原稿を落としていない。
「ダメになっても逃げ道がある、牧場に戻れば元気になるというノウハウを得たことが一番でかい。そうなった瞬間に、もう悩まないですよ。逃げ道を確保できたから頑張れたんです」
連載を再開して数カ月後、今度は池上氏が体調を崩して倒れた。入院している病院にお見舞いに行くと、居合わせた池上氏の妻に冗談交じりでこう言われた。
「あなたが私たちの米びつを握ってるんだからね」
「頑張ります!」と答えた武論尊さん。その後、池上氏は2カ月で復帰し、ふたりは1995年4月に迎える劇的な最終話まで駆け抜ける。単行本は総発行部数700万部を超える大ヒット作となった。
「ラーメン屋に置いてあるような漫画」を目指して再度タッグ
武論尊さんと池上遼一氏のコンビが再び脚光を浴びるのは、1998年に連載がスタートした『HEAT-灼熱-』。こちらは史村翔ではなく、武論尊の名義にした。そこには、理由がある。
『サンクチュアリ』の連載終了直後から、ふたりは『オデッセイ』『ストレイン』という2作品で連載した。ところが、期待に反して鳴かず飛ばず。そこで池上氏から武論尊さんにひとつの要望が入る。
「ラーメン屋に置いてあるような漫画を作らないか?」
『サンクチュアリ』は政治を描いたこともあって、インテリ層にも受けがよかった。一方、武論尊の代表作はなんといっても『北斗の拳』。池上氏は武論尊さんの原点でもある、熱くて荒々しいエンターテインメントを求めたのだ。それに応えて、再び勝負することを決意した。
