全世界での累計発行部数が1億冊を超える、アクション漫画の金字塔『北斗の拳』。2026年には、新作アニメ『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-(フィスト オブ ザ ノーススター)』の放映も決まっている。

 その原作者である武論尊さんは、数々のキャラクターやストーリーについて「こじつけ」から生まれたものも多いと笑いながら話す。今だから話せる、伝説の名作が生まれた舞台裏を、武論尊さん本人に聞いた。(全5回の3回目/続きを読む)

武論尊さんに『北斗の拳』舞台裏を聞いた(以下、写真撮影=川内イオ)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

『北斗の拳』は1983年、当時新人だった原哲夫氏がフレッシュジャンプの読み切りで描いた作品で、現代の若者が北斗神拳を使って恋人の敵討ちをするストーリーだった。

 この読み切りをベースに「原作をやらないか?」と声をかけてきたのが、週刊少年ジャンプの堀江信彦さん。そして、堀江さんと武論尊さんをつないだのは、当時の週刊少年ジャンプ編集長の西村繁男さんだった。そう、本宮ひろ志氏の事務所で出会い、武論尊さんをデビューに導いた編集者だ。オファーを受けて『北斗の拳』を読んだ武論尊さんは直感した。

「北斗神拳という拳法と『あんたもう死んでるよ』というセリフを見て、面白いと思ったよね。これを上手く使えれば当たるなと」

 ただ、現代劇のままでは北斗神拳を活かしきれないという予感があり、「好きにやらせてくれ。時代を変える」と答えた。その時、脳裏に浮かんでいたのが1981年に公開された映画『マッドマックス2』。石油パニックを契機に荒廃し、弱肉強食の近未来を描いた作品で、カンボジアで目にしたもの、感じたものと相通じるものがあった。

連載が終わった後も人気は根強く、新作アニメの制作も発表された 

 近代兵器のない世界なら北斗神拳が活きると確信した武論尊さん原作の『北斗の拳』は、巨大なキノコ雲の絵とともに幕を開ける。

「一九九×年、世界は核の炎につつまれた!!」

『北斗の拳』は、北斗神拳の伝承者、ケンシロウが世紀末世界で生き残った悪党たちと闘いながら、虐げられている民衆の救世主として成長する姿を描いた作品だ。

 1983年9月26日号に掲載された『北斗の拳』第1話は、当初から異例の扱いだった。通常、巻頭カラーであれば31ページと決まっているところ、46ページと大幅増。これは西村編集長が特例で認めたことだった。