貧乏だった幼少期が、たぐいまれな創作力を生んだ

 なぜ、印象的なセリフが思い浮かぶんですか? と尋ねると、ニヤリと笑った。

「嘘つきだから。このキャラクターだったらこういうこと言うだろうなって空想でしょ、ぜんぶ。空想ってことは嘘をつくことなんで、俺は多分、人並み外れた空想力があって、キャラクターに乗っけられる能力があったっていうことなのかもしれない」

 その人並外れた空想力の源泉こそ、少年時代に経験した「貧乏」だった。

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「うちにはテレビもなかったし、漫画を買うお金もなかった。だから、小さい時から小説を読んで、映画を観て、空想するしかなかったんだよ、楽しみが」

貧乏だったという生い立ちが、創作力の源泉となっている

 一大ブームを巻き起こした『北斗の拳』は、1988年に連載終了を迎えた。5年間の連載を駆け抜けた武論尊さんは、「こんなに化けると思ってなかった」という。

「それでも、連載開始当初から桁が違うっていう感じの反応はあった。『ドーベルマン刑事』の時とは比べ物にならないくらい。原先生の絵と北斗神拳、近未来の設定と俺の大きな嘘がうまいことハマったよね。多分、俺と原先生のコンビじゃなかったらできない作品だったと思ってるよ」

『北斗の拳』で、原作者として知らぬ者のいない存在となった武論尊さん。引く手あまたのなかでも、「あの人の絵で書きたい」と願ってやまなかったのが、池上遼一氏だった。1990年にビッグコミックスペリオール(小学館)で連載が始まったふたりのコラボ作品『サンクチュアリ』は、武論尊さんの“汚名返上”を懸けた作品だった――。

次の記事に続く 「俺の漫画を嫌っている人がいた」“北斗の拳”連載後「もう書けない」とスランプに……武論尊(78)が『どん底』から這い上がれたワケ

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