大山マジック誕生の舞台裏

――そうしますと、すべてのシーンに手がかりを入れ込むことの連続になりますが、短い時間に集中して考え抜いて書かれるのでしょうか。

大山 具体的に書いていく過程としては、まず箱書きを作ります。この手がかりはこの場面で出す、この手がかりを出したいからこの場面を作る、というふうに決めて箱書きを作っていき、書きやすい場面から肉付けしていきます。解決場面から書くこともあります。ミステリは解決場面が一番書きやすいので、解決場面だけしっかり細部まで先に書きこんで、そこに至るまでを後から書き足していく、ということもできます。

 昔と違って今はパソコンで簡単に文章の順番を変えられますので、そういう書き方をすることが多いですね。

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――たとえば、後ろから書いたんだけれども、前の方を書いているうちに、あれ?辻褄が合わなくなって結末変えなきゃ、ということも起こりますか?

大山 はい、そういうことも当然あります。

――書いているうちに、ご自身で心が熱くなる場面などあるのでしょうか?

大山 やはり解決場面ですね。苦心して考えた手がかりや推理や真相が明かされていくのを書くのはわくわくします。他には……、登場人物が苦しい状況に置かれた場面ですね。

――そういった場面を書くと楽しくなるという意味でしょうか!?

大山 いえ、楽しくなるわけではないのですが、登場人物が苦しい状況に置かれた場面を書くときは、より力が入ります。登場人物が感じている苦しみや悲しみを、何とかして文章で伝えようとします。そのときは心が熱くなっていますね。

小社サロンで、文藝春秋の創始者・菊池寛の銅像と一緒に。「『恩讐の彼方に』が印象に残っています」と、大山さん。(写真:文藝春秋写真部)

一本の短編ミステリが誕生するまで

――着想から執筆が終るまで、の全体の流れについてお伺いします。いつもどのような段階を経て作品が生み出されるのでしょうか。

大山 たとえば「鍵がかかった密室」といったように、まずテーマを絞りこんで決めます。そして、そのテーマを扱った先行作品を、記憶を探りながら、ネットの助けも借りながら、ノートに書き出していきます。ミステリは山ほど読んできましたので、この作業は苦労せずにわりと簡単にできますし、何より楽しいです。

 こうしてできた作品リストを眺めながら、先行作品でやっていないことを探したり、別のテーマと掛け合わせたらどうなるか考えたり、そのテーマの特徴を浮かび上がらせて、死角はないか、前提を疑うことはできないか探ったりして、アイデアを生み出します。そして、そのアイデアを生かすために伏線や手がかり、事件の細部、人物の配置を考え、書き上げるスタイルです。

 大山さん(写真左)は京都大学推理小説研究会出身。当社切ってのミステリ通・石井一成(写真右・文春文庫部部長)とはサークルの先輩後輩の仲。「5歳年上の仰ぎ見る大先輩で、本来であれば同じ椅子に座って会話できるような関係ではないんですけれども…」と冒頭は遠慮がちに語る石井だったが――。ミステリ愛にかけては誰にも負けない2人が、YouTubeチャンネルの文藝春秋PLUShttps://bunshun.jp/bungeishunju)で熱く語った回が12月5日に公開予定です!!(公開日は後ろにずれることもあります)お見逃しなく!(写真:文藝春秋写真部 榎本麻美)

――「この話を書こう!」と決めてから執筆が終わるまでを10とすると、構想にどれくらい時間を使いますか?

大山 構想時間が全体の中で圧倒的に多く、7~8割をあてます。あとの2割が執筆ですね。最後の段階でようやく執筆にとりかかるので、締切直前に書き始める、ということになります……。

――それだけアイデア出しにこだわるから、読者を驚かせる作品を生み出すことができるのですね。

大山 執筆を進めていても途中でつまらないアイデアだなと思うこともたまにあって、そんなときは一回すべて捨ててやり直します。その場合は、最初のリストアップした作品を眺める段階から再スタートです。

――(絶句)。古今東西、数多のミステリ作品があるなかで、ネタに使われていないところをまず探す、というのは本当に大変だと思います。日常生活を送るなかで、「あ! ネタがふってきたな」とひらめく瞬間はありますか?

大山 通勤電車の中でアイデアを思い付いたこともあります。机を前に座っているときよりは、たとえば散歩といった別の行動をとっているときに、思いつきやすいですね。

 思いついたアイデアは、時間があるときはノートに書き出しますが、時間がないときはいきなりパソコンに打ち込みます。