「なんで、こんなこともできないの?」

 百々果はバレーボール部に入っていて、夜の8時に練習を終えて帰ってくる。いつもなら、パパのほかに私かママのどちらかがいるようにしていたけど、その日だけは2人とも家にいられなかった。

 百々果が帰ると、パパがソファに座っていて、ワンちゃんのウンチはそのままでエサもあげておらず、部屋も散らかっていたそうだ。

「ぢっぢ、ちゃんと片付けようよ……」

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「なんで、こんなこともできないの?」

 練習帰りの百々果はへトへトで、責めるまではいかないが、「やれやれ」といった感じでそう言ったらしい。

 でも、パパにしてみれば「俺がシャキシャキ動けないの知ってるだろ!」。それで、ふたりにとって初めてとなる大ゲンカになってしまった。

「ぢっぢ、舞鶴に帰ればいいのに」

 言い合っているうちに、売り言葉に買い言葉で言ってしまったらしい。

 

 パパと百々果はほんとうに仲が良かった。正直、私よりも仲が良かったんじゃないかと思う。だから、すぐに仲直りもできたはず。

 でも、タイミングが悪いことに、翌日に百々果はバレーボールのトーナメント試合があって、韓国に向かわなければいけなかった。朝5時に起きて、パパに声を掛けようと考えていたみたいだが、パパは透析を受けるためにもっと早い時間に真鶴へ戻っていた。

百々果とパパの最後の電話

 トーナメントでは優勝を果たした。前回の大会では惜しくも準優勝で、負けたあとにすぐさまパパに電話をかけて励ましとねぎらいのことばをもらった。それもあって優勝したことを早く伝えたかったものの、ケンカの直後。どこか気恥ずかしさもあって自分から電話を掛けられなかった。

 べつに娘だからとかばうつもりはないが、このとき百々果は17歳。私が17歳のころは、パパとケンカするたびに家出上等で何日も口を利かないなんて当たり前だった。10代のころなんて、そんなものだ。

 

 パパのほうは優勝を聞いて、その日のうちに百々果に電話をした。

「百々果、おめでとうな」

「ありがとう。また後で掛けるから」

 メンバーと盛り上がっている最中の電話だったから、短くてどこかぎこちない会話をして電話を切った。

「明日、ぢっぢから電話が掛かってきたらきちんと話そう」

 だけど、翌日から電話が掛かってくることはなかった。