カトマンズにいる妻子までも傷つけていた
「夫が、日本人の女と結婚して日本に行くことは知っていました。夫はそのことを隠し続けていましたが、工房の人間が教えてくれたんです。すぐに私は反対しました。そんなことは許せなかったからです。カトマンズにあるNGOにも助けを求めに行きました。NGOは動いてくれませんでしたし、夫は3年か4年働いたら帰ってくると言ったので、最後は日本に行くことを認めたんです」
シュアムは智江さんを騙し、出稼ぎ目的のため日本に行ったのは明白だった。智江さんを殺めただけでなく、カトマンズにいる妻子までも傷つけていた。
さらにカトマンズで取材をしていくと、シュアムはたびたび暴行事件を起こしていると証言する人物にも出会った。実際に警察署に足を運んで、シュアムの名前と年齢で照会してみると、2回の逮捕歴があることがわかった。7年前と5年前に傷害事件を起こして逮捕され、7年前には1カ月刑務所に入っていた。
「ネパールの妻のことは誰にも言わないでください」
ネパールから日本に戻ると、シュアムと面会するために、札幌の拘置所に足を運んだ。待合室で30分ほど待たされると、私の番号が呼ばれた。パイプ椅子に座り、数十秒ほど待つと、刑務官と一緒に水色のパジャマを着たシュアムが現れた。ナマステと手を合わせると、彼も手を合わせた。
「あなたとは会ったことがないと思いますが、どなたでしょうか?」
シュアムは目をキョロキョロさせ、落ち着かない表情を浮かべながら聞いてきた。ネパールで聞いてきたさまざまな悪い噂とは結びつかない、どこか少年のような幼さが顔には残っていた。私がネパールの妻や子どもにも会ったことを告げると、シュアムは目にうっすらと涙を浮かべた。
「日本へは働きに来ただけだよ。だけどお金はもらえなかった。朝から晩まで働きづめで、ゆっくり話すこともできなかった。薪割り、雪かき、竹の子取り、1着のコートも買えなかった。お金を1回も送ることができなかったんだ。智江も日本の両親も僕に嫁さんや子どもがいることは知っていたよ」
