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シュアムはあくまでも、日本には働きに来たことを強調し続けた。彼の口からは事件を起こしたことを悔いる言葉は出てこない。自己弁護を弄し、智江さんも両親もネパールに妻子がいることを知っていたと嘘をつく姿に、怒りが込み上げてきた。
シュアムと面会する前日、私は智江さんの両親と会い、ネパールで結婚していた事実や犯罪歴などを余すことなく伝えていた。
「そうか。そんな人間だったんだなぁ」
父親はそう言ったきり黙ってしまい、母親は手で顔を隠し声をあげて泣いてしまった。2人がシュアムが結婚していた事実を知るはずもない。
「ネパールの妻のことは誰にも言わないでください」
私は智江さんの両親の無念さを胸に感じながらシュアムに尋ねた。
「それではなんで智江さんと一緒に生活をしていたんですか。智江さんと結婚して日本に来て、娘さんもできたでしょう」
すると、今まで饒舌に話していたシュアムは答えに窮した。苦しまぎれにシュアムが言った。
「頼むから、ネパールの妻のことは誰にも言わないでください」
その言葉でシュアムは智江さんの両親だけでなく、智江さんにもネパール人の妻のことを伝えてないことを確信した。
最初は、あどけない少年のように見えたシュアムが、醜悪な獣にしか見えなかった。
後味の悪さだけを感じながら、シュアムとの面会を終えた。
殺害された智江さんは、結婚の意思を両親に伝えたとき、シュアムについてこう言っていた。